” 手放すことの無いもの ” #3
Kilgour French & Stanbury
Heinrich Dinkelacker
僕は、先ず、自分自身の為に装う。 それが他の人に認められれば、嬉しい。
僕自身のスタイルは、日を追って洗練を高める旅のようなものだ。
他の方法ではおそらく受け容れることが難しい自分の側面を、ファッションが表現する。
その意味で、僕は毎日の旅路を楽しんでいるし、旅が終わってしまう日を恐れている。
「河上くん、SSCENCEのピラーティの記事読んだ? 良いことが書いてあるんだよね〜。」
MANHOLEでも取り扱いのあるブランドのとあるデザイナーさんから教えてもらった記事。
パッと見ただけで拾う部分がたくさんあるし、何故だか読むとなんとなく自分が肯定されているようで元気が出た。(規模感はどうあれ)
前職の中小個店で得た一番大きなものは「外から情報を得ること、知らないことを教えてもらうこと」。
外に出て今まで関わることの無かった人と会う。
展示会の内容ももちろん重要ですが、商品以上に大切なのが展示会で話をすることで得るもの。
僕に出来る仕事は、それに自分の価値観を乗せること。
薄めずに、どう濃くするか。
その上で、人に伝えること。
これはMANHOLEの開店祝いとして、ある方から受け取ったもの。
良い意味で驚きは無かった。
なんとなく、そういうことをしてくれそうな予感はしていた。
このコートを受け取ったことで自分にしか出来ない役割が増えた気がする。
今の僕には、自分が苦労して作り上げた自分のお店がある。
Heinrich Dinkelackerは近くのお店で買うことが出来る。
現行の革靴は自分で新品を買って自分の物にしないとわからないから、人にあげるものでも人から貰うものでも無い。
だけど、Kilgour French & Stanburyのジャケット、FRANK LEDERのコートはもう手に入らない。
いつかリプロされてもそれは全く別の物。
10年後か、20年後か。
いつかどこかで出会うであろう誰かに渡すことが、今から楽しみで仕方がない。
僕はおそらく手放すことのないモノをいくつか持っています。
誰にでも価値があるものでも無いかもしれないし、実際に身につけることはしばらくないかもしれません。
企画のサンプルにすることもきっと無いし、ましてや売ってお金に変えることなんて絶対に無いモノ。
僕にとって本当の” 手放すことのないモノ”というのは物理的なモノではなく、今まで出会った様々な方から受け取ってきた主張や意思、思想から形成される僕だけの価値観なのかもしれません。
最後に僕が大好きで非常に共感が出来る、ある方の価値観を紹介させてください。
彼のブランドアイコンであるシャベル。これは労働の象徴であると同時に新しい道を切り拓くための道具でもある。毎シーズン彼の作る服に添えられたお伽噺のようなテーマ性。それはエディ スリマンにはちっともハマれなかった当時の僕にシャベルを持たせ、退屈な日常から少しだけエスケイプするためのトンネルを掘らせてくれたんだと思う。
ファッションとはモノではなく物語だ。
引用元: – 我が逃走 – Amvai 鶴田啓 (international gallery BEAMS)
河上 尚哉