黒い服
「安定の黒。黒は間違いない」という洋服の選び方を良く見かける。
本当にそうなんだろうか。
僕は黒い洋服を選ぶ時、不安になる。
でも、「黒い洋服は着ない。」という人の隣では無性に黒い洋服を着たくなる。
最近僕が黒い洋服をあまり着ない理由は、隣で中台が普通に黒を着るからだと思う。
洋服を着る際にそこまで理由を必要としない僕らでも、黒い洋服を着る時は頭のどこかで「理由」を探す自分がいる。
黒いパンツに茶色い靴を合わせるのは勇気が必要だ。
黒いジャケットを着る時は「なんで黒いジャケットなのか。」と考える。
黒いニットタイは意外と使いやすい。なんでだろう。
黒いニットはタートルネック/クルーネック/Vネック/ハイゲージ/ローゲージ/ミドルゲージで使い方が変わる。
黒いシャツは着方が良くわからないからとりあえず着てみると日によってハマる日と全然違う日が分かれる。
黒い靴下はたまに履きたくなる。
黒いカットソーは夏にこそ着たくなる。
黒い靴が好きなのは、どこか野暮ったい自分とのバランスを取りたいからなのかもしれない。
僕らが黒い洋服を好きな理由は、黒い洋服は曖昧だからだ。曖昧だけど、力強い。
その日の気分、その日向かう場所、その日の光。
そういった自分以外の要素全てに左右される不安定な色。
盛夏に向けてcantateの黒のトラウザーズを用意した。
以前発売したモヘヤバラシアのモデルとは生地もシルエットも異なる。
今期cantateで2種類の黒の2タックのトラウザーズを用意したのは、「同じブランドのほぼ同じ形の黒いパンツ」でも、生地が変わることで役割も見え方も印象も変わる繊細さを、MANHOLEのお客さんであれば楽しんでもらえるような気がしたからだ。
あとは、この生地のこの形のこの色のパンツがかっこよかったから。
夏場に着る涼しげな黒は、かっこいい。
腰回りのゆったりした2インタック。
ウェストチェーンステッチ/インシームは巻き縫いという野趣溢れるディテール。
シルエットはすそ幅の広いワイドストレート。
用いられた生地:モヘヤトロピカルは、湿度の出て来た今時期から触れるからこそ、感じる良さがある。
そして、同じくモヘヤトロピカルの「グリーンブラック」を用いたジャケット&トラウザーズ。
これはダークスーツだけど、ダークスーツではないという良さがある。
通常のダークスーツに出来ることは大体出来るけど、通常のダークスーツに出来ないことが出来るかもしれない。
僕らにとって黒い洋服を着ることの楽しさは、安定感があるからでも合わせやすいからでもなんでもない。
あまり洋服を着る際に理由を必要としないつもりの僕らでも、黒い洋服を着る時は頭のどこかで「理由」を探している自分に気付くからである。
「そんなに考える必要ないんじゃないですかね〜。」なんてお客さんには言いつつも、考えながら洋服を着るのはやっぱり楽しい。
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河上 尚哉
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