好きって一体なんじゃらほい
「僕、好きって言葉を自分で発するのがあまり好きじゃないんです。」
MANHOLEに通ってくれるお客さんの中に、たまにその言葉をこぼす方がいる。
まあ、その気持ちはわかるような〜わからないような〜感じ。
深入りすると長くなりそうな答えの出ない話なので、いつも「あ、そうなんですね〜。」と、聞き流すことにしている。
だけど、そういう言葉は僕の頭の中に残るのか、ふとした瞬間にその言葉の中身を自分に置き換えて考えることにしている。
確かにお店を作ってから「今好きな物だけを仕入れること、今好きなことだけをやり続けること」という行為に対して疑問や違和感を抱く自分たちがいる。
今好きな物だけを仕入れること、今好きなことだけをやり続けることで毎日すり減っていく「蓄積してきたはずの好きな気持ち」は今、自分の中でどれだけの厚みを残しているのだろうか。
今この時抱く、好き / かわいい / かっこいい等の、心のどこからやってくるか自分でもわからないふわふわとしたこの感情は、一体なんなんだろうか。
本当に自分の中から生まれたものなのだろうか。
誰かに植え付けられた何かではないのだろうか。
ある日の僕。
一つ一つ単体で見た場合、着方も含めて僕は全部が嫌いだ。
理想の自分以外の自分に対し、現実の軽率なチャラついた自分。
でも、理想の自分以外の自分であるよりも、現実の軽率なチャラついた自分でいる方が今は楽なことに気付く。
何故か嫌いだったこと、何故かやってこなかったこと。
一度やってみると思いの外しっくりきて受け入れることが出来た。
全部が全部透けさせるのは違うし、全部が全部はだけるのも違う、全部が全部襟を出すのも違う、全部が全部穴あきのショーツに合わせるのも違う、全部が全部裸足で履くのも違う。
だけど、この日に限ってはこれでもいいと思える。
「今、好きなこと/好きな物以外の気になる何かを試しに取り入れてみること。」
これは、MANHOLEをオープンしてから僕らが無意識に取り組んでいた、一つの項目だと最近気付いた。
例えば、好きな物だけを作り続ける人 / 自分がその時良いと思える物だけを作り続ける人 / それ以外も認めながら物を作り続ける人 / それ以外を認めずに物を作り続ける人、幸いなことに僕らの周りにはそういう人たちがたくさんいる。
その上で、僕らがあえてその人たちと同じような道を辿る必要が、果たしてあるのだろうか。
僕らはそういう人たちが形にした「今の僕らの中にないもの」を、どんどん取り入れていく。
その積み重ねが、結果的にいつかの僕らをいずれ形成するのだろう。
それが良いか悪いかは、その時の自分と自分の周りを見渡して判断すればいい。
「好き」に囚われすぎると周りが見えなくなるし、わからなくなる。
「好き」という気持ちや感情は、自分を奮い立たせる原動力であると同時に、自分を見失う霧や煙 / 自分を誤魔化すための魔法だ。
そうしていつの間にか霧や煙が消え、魔法が解けた瞬間に「自分が好きなものって、一体なんなんだろう、一体なんだったんだろうか。」という時間を迎えるのが僕は、すごく、怖い。
怖いからこそ僕らは今好きなものと同じだけの時間を、今嫌いなものに対しても向けていこうと思う。
そういえば、お店を始める際に中台を誘った理由は「好きなものが共有できるから」じゃなくて「理由もなく/理由があって嫌いなものが共有できるから」だったのを今、思い出した。
好きなものと嫌いなものの間にふわふわと漂う、好きになれそうなもの/もっと好きになるもの/もっと嫌いになるもの。
それを探すのに必要なのは、卓越した審美眼でも圧倒的なセンスでも何でもなく、自分の内側と自分以外の何かに向き合ってきた時間なのだろう。
セレクトショップでここ数年続く売り方のトレンドは「人にフォーカスを当てること」。
店でも物でもなく、人にファンがつけば売れると思っている。
洋服の売り方として昔から続くクラシックでアナログな、そして将来的にも変わらない一つの大きな道なのだろう、そこを否定する気はない。
ただ、危険なのはそこに「売りたい。」という気持ちが強く絡むことだ。
残念ながらそこが先行して長く耐えられるほど、洋服の強度は高くない。
所詮ただの布、糸の集合体、強く引っ張れば裂ける、気持ちが強いものほど尚のこと脆い。
そして、その「売りたい」という気持ちを綺麗にプラスマイナスゼロ付近まで着地させるのが、本当の「好き」という気持ちなんだろう。
では、その本当の「好き」という気持ちを本当の「好き」という気持ちのまま未来まで持っていく為に、僕らにいま出来ることは一体どんなことなのだろうか。
ある人は「飽きること」だと言っていた。
確かに飽きると、新しく好きになれる物を探し始める。
なぜなら、僕らは、とても、暇だから。
昨日ふらっと現れた昔の先輩が昔と変わらず主張している「物は裏切らない。」という言葉も的を射ていると思った。
迂回して違うものを見て、昔好きだった物に対して新しいことに気付くことだってたくさんあるだろう。
洋服は時に形を変えて、時に形を変えず、時に突然変異して、時に風化しても尚いつだってそこにある。
僕らがこのブランドを今季も変わらずにオーダーしている理由は。
「自分が既に好きな物」なんて小さい枠に絶対に収まりきらない、自分の内側にはない「好きになれそうなもの」を様々な角度から与えてくれるからである。
そして、それは決して「新しいものを手にする」という経験だけに留まらないはず。
何故なら、新しく買った洋服は自分が既に持っている洋服と合わせないと、着ることが出来ない。
色々なブランドがいうようになった「トレンドに左右されない物作り」というのも実は、既にトレンドのど真ん中です。
「誰かに決められた普通」を楽しむの、そろそろ飽きてもいい頃じゃないでしょうか。
SNSで誰がなんと言おうと、最終的に好きになるのは自分自身。
「誰かが好きだから好き。」から始めるのはすごく自然なことですが、どうせだったらそこから本当に自分が好きになれるものを、一緒に探していきませんか。
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