とある別れとある分かれ
人は読みながら推量し、捏造する。
全ては最初の間違いから始まる。
我々が頑なに、そしてそれに劣らず誠実に、真実だと信じていることの大半は。
当初の勘違いに端を発しているのである。
-マルセル・プルースト「失われた時を求めて」
(引用元:舞踏会へ向かう三人の農夫)
CLASSのトラウザーズ:AMARYLLIS。
ミラノの名門サルトリアに見る意匠を模した、クラシックなトラウザーズ。
のはずなのに。
裾に何故かウルトラスエードのテープが巻かれている。
しかも、ウルトラスエードのテープとパンツは手星の本ステッチで固定されている。
何故このパンツにこんなデザインがされ無駄な手間をかけてここに辿り着いてしまったのか、僕には到底理解が出来ない。
CLASSのデザインチームは「街中でスーツの裾に何故かガムテープを巻いているおじさんを見かけ、それを参考に作りました。」と言っていて写真も見せてくれたけど、これも本当か冗談かはわからない。
仕込みの可能性だってある。
ましてや何故そのおじさんがスーツの裾にガムテープを巻いていたのかは、本人以外にはわからないし本人にもわからない可能性だってある。
検証や理解のしようがない。
いずれにせよ、そもそもデザインを理解して一つの答えに導く行為自体がナンセンスである。
デザインに対する意見が分かれようが、それを選ぶか選ばないかの道が別れようが、目の前の洋服はいずれ役割を終えるまで、変わらずそこにあるのだ。
普通に穿いてみる。
ある人は「ウルトラスエードのパーツが余計なんだよなあ。」と、思うかもしれない。
ある人は「このデザインを入れるなら、ウェストの仕様をもっと簡素化させればいいのに。」と、思うかもしれない。
ある人は「そもそも、こんなパンツはいらない。」と、思うかもしれない。
かくいう僕は、「デザインの意図は理解できないけど、かっこいいなあ。」と、感じている。
そして、このパンツはそこから始まる洋服だとも思う。
そこから、その人の体型や生活スタイル、持っている洋服、持っている靴、その日の天候その日の気持ちなどの要素が乗っかっていく。
(現時点では)最初から間違っている洋服に付与される、その人が思うこのパンツの合わせ方。
どこで飽きるか飽きないか。どこで傷むか傷まないか。傷んだ先にどうするか。
それを繰り返していくことで、いつの日かこのパンツのデザインが「本物」となってしまう楽しさと、危うさと、退屈さが、洋服にはある。
この裾がおじさん発祥だと知りながら受け取る僕たち。
この裾がおじさん発祥だと知らずに受け取る誰か。
このデザインが(仮に)いつの日か「本物」として成った際に受け取る誰か。
それぞれのスタート地点は、きっと、違う。
物作りをする人は、自分が作ったものの行く末を、
流れ流れて自分が想像つかないような結末を、
いつか目にすることすらも楽しんでいるのかもしれない。
僕と同じサイズを履いた中台。
当たり前のように印象は違う。
体型も違うし、性格も違うし持っている雰囲気も違う。
ついでに言うとたまに「なんでこいつと一緒に働いてるんだろうか。」と思うくらい働き方も違うけど、だからいいんだと思う。
ちなみにこのパンツ、手星の本ステッチのせいで裾直しは出来ない。
短かろうが、長かろうがそのまま受け入れてください。
人は生きながら推量し、捏造する。
全ては最初の間違いから始まる。
僕たちが頑なに、そしてそれに劣らず誠実に、真実だと信じていることの大半は。
当初の勘違いに端を発しているのである。
これは決して悪いことではないのだろう。
とある別れとある分かれ、それぞれの先は残念ながら/ありがたいことに自分が自分自身の役割を終えるまで、続く。
勘違いの先に何があるかはわからないし、到底理解も出来ない。
理解はしたい。
だけど、その理解すらも勘違いの可能性があるならば、今の僕たちが導き出す生き方は一つしかないだろう。
色々あるけどとりあえず。
僕らは毎日が、それなりに楽しい。
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河上 尚哉
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