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しばらく、合わなかった靴。




6,7年前に買ったF.LLI Giacomettiのサイドゴアブーツ。
ボリューミーなブーツ木型:GIORDANO TR。
エラスティック下に接ぎを入れず一枚革を使用した作りが、頑強さの中に繊細さを感じさせてくれる。

甲革はゴートレザー。
思えばこの革を僕が好きなのは、このサイドゴアブーツの「道具としての便利さ」を体感したことがきっかけだった。

長い間気に入って履いていたし、当時のお客さんも気に入って履いてくれていたけど、何故かMANHOLEをオープンして以降約2,3年間、僕はこの靴を全然履いていない。
定期的に埃を落としてクリームを入れるだけの靴。





甲革がダメになったわけでも、ソール補修が必要なわけでも、どこかが傷んでいるわけでもない。
見る度に「かっこいい靴だなあ。」とは思うんだけど、履く気にならない。

これが何故なのかはなんとな〜くわかっていた。
僕らがMANHOLEをオープンして以降、お客さんに提案し続けていた裾幅の広いスラックスとは絶妙に合わない靴だったのである。

なんて。
合わない理由を考えることなんてあまり無いんだけど、なんとなく嫌なまま放置してもうそろそろ3年が経とうとしているので、なんで嫌だったのかを考えてみることにした。



MANHOLEオープン以降、定期的に紹介しているSADEのパンツ:PT-01。
僕はこのパンツに、この靴を合わせることに対して違和感を覚える。
どうにも落ち着かない。

足首が綺麗に見えるブーツの良さを、消すパンツ。
裾がふわふわと揺れる動きを、止めるブーツ。

ビブラム/ゴートレザー/丸っこいトゥ。
このパンツの生地を受け止めるのにも、全部強すぎる。




気分じゃないとはいえ、格好いい靴。道具としても優れている。
「なんだか気分に合わない。」という理由だけで放置するのも少し飽きた。

仕入れを繰り返す度に細くなっていくトゥにも限界はある。
だからこそ今、少しだけ気持ちから離れていたボリュームのある靴に一度戻ってみてもいいのかもしれない。
裾幅の広いパンツも、MANHOLEのお客さんにはなんとなく定着した気がするし、幸い今パンツのシルエットにはトレンドらしいトレンドも無い。

かれこれ長いことしていない、ロールアップという選択。
しばらくシングルに直していた裾を、ダブルに。
この靴の良さを改めて受け入れることで、裾を引きずりそうになりながら穿いていたパンツの丈を直そうという気持ちにもなるだろうし、しばらく穿いていないパンツを引き摺り出して穿くきっかけにもなるかもしれない。





と、いうわけで。
今年から少しずつパンツのシルエットを変えてみている。
変えてみている、というか、増やしてみている。
気分に合わなかった靴も、自分の気持ちの方向を少しだけ変えるだけで、良く見えるようになるから不思議なものだ。
足元から変わるバランスは、徐々に上に伝播して変化していく。

僕らはきっと、こういうどこから湧いてくるかわからないなんとなくの思いつきに「なんか嫌だなあ。」という気持ちを抱くことなく日々を送るために、たくさんの洋服を持っているのだろう。





今回仕入れたこの靴もまた。
「なんとなく、思いつきで、ノリで」作った靴だ。
正直届くまでドキドキしてたけど、箱を開いたら思った以上にかっこよくて安心した。

毛足の長い銀付きスエードとクロコダイルのキャップトゥ。
質感の全く違う黒がスイッチするサイドゴアブーツ。



F.LLI Giacometti
” FG208 Giordano/TR” – SIDE GORE BOOTS –
[Velvina Nero + Fianco Cocco]
¥170,500-(tax included)




自分の中で少しだけ飽きているバランスの靴を。
「道具として便利だから」という理由でリピートして、単純に便利な物として紹介するのが嫌だった僕にとって、今回仕入れたこのサイドゴアブーツは(良い意味で)チャラい仕様変更になった気がする。

おかげで、既に飽きた物に対する気持ちが少しだけ前を向く。
人間の「飽き」という感情は、少し時間を置いて自分が変化するのを待つことで、大体が無かったことになるのだろう。

自分の変化なんて、多くは他人から見たらひどく些細な違いだ。
だからこそ、MANHOLEのお客さんにはその繊細さを楽しんで欲しいと思う。




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