出口を探して。
長く続いた暗い冬道の終わりとともに。
テーラードジャケットに春の光が訪れたことを、感じないだろうか。
どれがカジュアルどれがドレス、どれがクラシックでどれがモダンかなんて物単位でのジャンルの線引きは、最早過去のものだけど。
ルールを毛嫌いするのも稚拙。規律無き自由なんてクソだ。
定められた道があるからこそ、人は横道に逸れていける。
いかに入り口でフォーマル/ドレス/モード/カジュアル等の交通整理がされていようと、僕らは自分の行き先次第でいつだって道を逸れるし、どこにだって出口を見つけることが出来る。
戦う相手はいつだって、何かに映る自分自身の姿だ。
不安だったら引き返せばいい。自信があれば外に出よう。
幸運なことに今、東京の雑多な街並みはそれを受け入れてくれる。
さて。
「良いもの」の説明として。
接着芯か本毛芯か、1枚衿か2枚衿か、ハンドかマシンか、生産国がどこか、どこの工場が作っているか、生地がどうか、付属がどうか、肩パッドがあるかないか、着丈が長いか短いか、ダーツの位置がどこか、ベントがサイドか真ん中かもしくはないか、ボタンの数がどうか、袖のボタンが重なっているか重なっていないか、本切羽かそうでないか、裏地の仕様がどうか、ラペルのロールが綺麗かどうか、ゴージのラインが高いか低いか、胸ポケットが曲がっているかどうか、イセ込みが多いか少ないか。
などを始めとする様々な要素が紐解かれて解説されるテーラードジャケット。
だけど。
本毛芯仕立てのジャケットでも、ダサいものはダサい。
巧みなアイロンワークを必要とする一枚衿のジャケットでも、ダサいものはダサい。
ポケットの裏地までフルハンドで作っているジャケットでも、ダサいものはダサい。
生産国がイタリアだろうとイギリスだろうとフランスだろうとアメリカだろうと日本だろうと、ビスポーク工場で作ろうが、トップメゾンの既製服工場で作ろうがダサいものはダサい。
生地/付属が良くてもダサいものはダサい。
着丈が長くても短くても、ダサいものはダサい。
本切羽、ハンドのボタンホール、ボタンが重なっていようとなかろうとダサいものはダサい。
ラペルのロールが綺麗でもラペルの形がどんな種類でも、ダサいものはダサい。
胸ポケットが曲がっていようと立体感があろうと、ダサいものはダサい。
いかにトルソーが着てかっこよくても、人が着るとダサいものはダサい。
そう、どんなに中身が良くても、どんなに裁断/縫製/仕上げが良くても、どんなに仕様がかっこよくても、どんなに生地が良くても。
それが「かっこいい洋服」であるとは、限らない。
反対にそこまで作り込んでいないもの、自分に全くサイズがあっていないもの、時代感にあっていないものでも。
着ると何故かその時かっこよく目に映る物が存在するのも洋服の楽しさである。
例えそれがビスポークだろうとデザイナーズだろうと古着だろうと普通のカジュアルだろうと。
物自体の要素、そして物以外の要素が全て複雑に絡み合った際生じる、全体の雰囲気の良さを感じ取ることが出来るとすれば、目の前のそれは「かっこいい洋服」となる。
では、「かっこいいテーラードジャケット」とは具体的にどんなものなのだろうか。
その答えの一つとして。
MANHOLEで今回テーラードジャケットを用意した。
renomaのブレザー、モデル:VERNEUIL。
細かな仕様はどうでもいい。
それは僕らが感じるこのジャケットのかっこよさの説明には、なり得ない。
このジャケットははっきり言って着る人の体型を、選ぶ。
細いし薄い。一般的な「動きやすい、着やすい」を目的とするジャケット像からは程遠い。
恐らく、「かっちりとしたジャケット」を苦手とする人からは一番敬遠されるテーラードジャケット。
それなのに「着てみたい。」と思うかっこよさが、このジャケットには確かに存在する。
そして、そう感じさせる要因が。
使っている生地、仕様、縫製といった部分的な要素のみに宿る物ではないことが、一度羽織れば理解できるはずだ。
「生地が良い、縫製が良い、仕様が良い」という部分的な記号は、全体という結果に向かう過程にすぎない。
物自体の要素、そして物以外の要素が全て複雑に絡み合った際生じる、全体的な雰囲気の良さを。
このジャケットからは、確かに感じ取ることが出来るはずだ。
更に、同時にリリースされるこのジャケットを見て欲しい。
パンチングのウルトラスエード、縫製はフラットシーマ。
一般的な「良いテーラードジャケット」の説明に、一切当てはまらないジャケット。
ネイビーブレザー:VERNEUILとは対極的な洋服。
もはや「テーラードジャケット」なのかすらわからない。
それにも関わらず僕らにはこのジャケットが「かっこいいテーラードジャケット」として目に映る。
きっとこのジャケットを作った人は、ビスポークもデザイナーズも古着も普通のカジュアルも、全てがただの洋服として一つのテーブルの上に乗っかっているのだろう。
僕らもMANHOLEのお客さんと共に。
ビスポークもデザイナーズも古着も普通のカジュアルも全部一緒のテーブルに乗せて物が見たい。
その上で、どれが良い、何が良いかは改めてその時々の自分たちが自らの手で決めることにしよう。
このrenomaのジャケットは、その為の一つの道。
他人が定めた「誰かにとって良いもの」の定義に従うばかりでは、自分が求める正解はいつまで経っても見つからない。
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河上 尚哉
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