お店からの帰り道
鶴田さんが入社して以降。
僕は鶴田さんの友人である藤木さんが運営する飯田橋のアートギャラリー:Rollへ、たまに顔を出すようになった。
長い間アートとは無縁の生活を送っていたので、MANHOLEに飾る用と言えど自分で作品を買う姿なんて想像すらしていなかった。
今ではRollへ遊びに行くたびに「お店に合っちゃうな〜。」みたいなふわふわした気持ちで買い物をしている自分がいる。
どれにしようか悩んでいる僕に対して藤木さんは「河上くん、無理しなくていいからね〜。」と、言ってくれるんだけど。
「自分が買ったことの無い物を買う。」という行為が今新鮮に感じるせいか、Rollでの買い物はとても楽しい。
が、僕にアート作品の値段はわからない。
値段を見てびっくりするものもあるし、「あ、意外とこんなもんなのか。」と思うものもある。
わからないけど、藤木さんとアーティストさんが「この値段!」と、決めているのならばその値段なんだと自分を納得させている。
Rollで過ごす時間は、僕にとって「なんかわかんないけど、なんかこれかっこいいなあ、なんか手に入れたいなあ。」というふわふわした時間だ。
目的も無い。今、何の展示が行われているかも知らないままに、僕はRollへ向かう。
ちなみに今何の展示が行われているかをインスタグラムなどで調べたとしても、藤木さんが案内を送ってくれたとしても、残念ながら出展/出店しているアーティストさんの事を僕は何も知らない。
前情報も何も無いせいで余計にRollで過ごす時間のふわふわした感じは増すのだけれど、僕にとってその「ふわふわした時間」はなんだか心地が良い。
Rollから出て夕暮れ時の飯田橋の街を歩き地下鉄のホームへ向かう途中、僕は毎回疑問に思う。
お金って一体、なんなんだろう。
CLASSからCorgi社製のニットが届いた。
コットンのニットで16万円台というのは、はっきり言って値段が高い。
だけど、色々な背景でニットを企画するようになってから。
代理店を通さず海外から直接商品を仕入れるようになってから。
改めて、僕はこのニットの凄さがなんとなく理解出来るようになった気がする。
まず、思い付かないから形に出来ない。
メインの色選び。
インターシャ部(このニットだと丸い柄になってる部分)の色選び。
柄の位置決め。
パーツを跨いだインターシャなど。
根本として思い付かないから自分ではまず形に出来ない。
自分では思い付かない上に、「いいな。」と思ってしまったから完敗である。
このニットは、そういう意味では僕にとって「16万円払っても、欲しい。」と思えるコットンニットなのである。
結局、買い物なんて「いいな。」と思ってしまった自分の負けなんだと思う。
物の価値を紐解いて理解する過程に、果たして楽しさは存在するのだろうか。
Corgiから代理店を通して仕入れるニット、ソックス。
CLASSのようなブランドがCorgiをニットファクトリーとして使って企画するニット、ソックス。
様々な形でMANHOLEにはCorgi社製の編み物が並んできたし、並んでいるし、これからも並ぶだろう。
全て、値段は安くはない。
だけど、それはCorgiのせいじゃない。
今の時代に生まれた自分と、日本という国に住んでいることを受け入れよう。
今の時代に生まれたからこそ、日本に住んでいるからこそ、Corgiのニットが良く見える部分はきっとある。
このファクトリーは得意なことをお願いした場合、はちゃめちゃに雰囲気の良いものを仕上げてくる。
糸色 / 編み地、仮に全て日本で真似して作ることが出来たとしても、それはCorgiのニットではない。
そう。自分に形に出来ないことを、Corgiは形に出来るのだ。
やっぱり買い物なんて「いいな。」と思ってしまった自分の負けなんだと思う。
物の価値を紐解いて理解する過程に、楽しさは存在しない。
僕は、洋服とRollに並ぶアートは別のものだと思う。
ただ、Rollのアートも洋服も、自分が「いいな。」と思った時点で負けな点は変わらない。
いや、仮に手に入らなくても「いいな。」と思えた時点で楽しい。
手に入ればもっと楽しい。
買い物の種類としては似ている。
余計な先入観の無い、ふわふわとした時間の中での自分の選択も許してあげてほしい。
さて、「お金って一体なんなんだろう。」というクエスチョンマーク。
それは、Rollから出て夕暮れ時の飯田橋の街を歩き地下鉄のホームへ向かう途中の僕だけでなく、MANHOLEから出て表参道か外苑前の街を歩き地下鉄のホームへ向かう途中のお客さんも感じていることなのだろう。
Rollで作品を買う際に、藤木さんは「え!買ってくれるの!ありがとー!」と、本当に嬉しそうにしてくれる。アーティストさんもどうやら喜んでくれているらしい。
お金というのは、とりあえず使えばいい物ではなく。
自分が「いいな。」と思う何かに使えば、その何かを用意した誰かが喜んでくれる物なのだろう。そんなことを僕は地下鉄に乗って家に帰る間に考える。
そういえば、僕は「いいな。」と思う物が手に入って嬉しい。みんな、嬉しい。
家に着いた頃には使ったお金のことはすっかり忘れ、その代わりに買った作品がお店へ届く日のことを楽しみにしている。
夕飯を食べてる最中、眠っている最中、朝起きて歯を磨いている最中に、お金のことも作品のことも忘れる。
たまに先日使ったお金のことを、先日買った作品のことをふと思い出して、頑張ろうと思う。
そんな日々の一コマが、僕は楽しい。
価値観はそれぞれ、何が良いか悪いかを判断するのも人それぞれだけど。
少なくとも僕らは、Rollから帰る僕以上の気持ちをMANHOLEのお客さんへ渡す為に、退屈な毎日を楽しく過ごすことが出来るようにしたい。
MANHOLE official instagram
河上 尚哉
〒107-0062
東京都港区南青山4-1-3 セントラル青山003号室
M : info@manhole-store.com
T : 03 4283 8892