色気について
昔、トム・ブラウンが「足首は男のセックスアピールだ」と言っていたのを雑誌のインタビューで読んだことがある。道理で彼は一年中、足首が丸見えになるような短丈のパンツにレザーシューズを素足で履いているわけだ、と思った。
こんにちは、鶴田です。
NICENESSからチノクロス素材のアウターが届いた。初摘みのスビンコットンを使用したオリジナルのチノクロスは畝の凹凸がはっきりと立った綾目ながら、滑りの良いスムーズな手触り。
ヨーロッパの鉄道員が着ていた作業着とピーコートを合わせたような、10ボタンダブルブレストスタイルのハーフコート。ヴィンテージのレイルロードコートに見られるような、袖口やポケット口のレザー切り替えは無く、全体的にすっきりとした印象だが…。
襟裏には力強い質感のカウレザーが当ててある。肉厚でありながら、しっとり柔らかい。無造作に襟を立ててみると、チノコートの素っ気ない表情が色気のあるバックスタイルに変わる。
細い両玉縁ポケットからは繊細で高いレベルの縫製技術が窺い知れる。
袖口裏にもカウレザーが張ってある。腰ポケットのフラップ裏には片玉縁とストラップ留めボタン。
マフポケット内側にもレザーが仕込んである。
中台にサッと羽織ってもらった、ごく自然なルック。カジュアルでありながら、ダメージが入ったカモフラの軍パンとは圧倒的に異なる存在感のチノコート。
微光沢のあるチノクロスに襟裏や袖口裏のレザーが男の色気を添える。
色違いのブラック。黒くてしなやかなチノクロスはその素材だけでも十分に色気がある。
こちらは鶴田が着てきたスーツの上からガバッと羽織ってみた。
ドレススタイルのアウターとしてM65を選ぶこと自体はもう何十年も昔からクラシックな人々に浸透しているが、黒いチノクロスコートには一味違う色気がある。
袖口からチラリと覗くスーツ地、襟裏の黒いレザー。
トム・ブラウンは「足首」と言ったが、僕が思うに「首」や「手首」からだって男の色気は溢れ出る。普段は見えないはずのところから、予想を少しだけ裏切るような素材が、質感が、柄が、色が、丁寧な仕事が見えたとき。人の心は動く。
本来であればワークウェアでありミリタリーウェア。本来であれば質実剛健な強度を求められるチノクロスやレザーの素材使い。歴史服のディテールや用途を熟知しながらも、NICENESSのクリエイションは僕らの予想を少しだけ裏切ってくる。
羽織った時の軽さ。襟を立てる時に触れたレザーの柔らかさ。ポケットに手を突っ込んでみた時の手触り。柔和な笑顔が印象的なあの人がふいに見せる芯の強さ。乱暴な言葉遣いの行間から読み取れる優しさ。
「あれ、思っていた感じと少し違う?」
第一印象やイメージや自分の経験上の正義をその対象に求めすぎると自分もつまらなくなるし相手もツラくなる。それは人もファッションも同じことだろう。決めつけてはいけない。求めすぎてはいけない。かたくなに閉ざしてはいけない。すべてを想定内で埋め尽くしてはいけない。
例えばNICENESSのように優秀なデザイナーが作り上げる洋服達が飛び越えてくる「先入観のその先」にこそファッションが持つセクシーな部分が隠れているのだと、僕は思う。つまりそれは、おおらかさとこだわりの寸隙と付いてくるようなクリティカルヒットであり、その瞬間に人は何かを「好き」になる。それは単純に許す/許されるだけでは生まれてこない、美しく能動的な感情である。
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鶴田 啓
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