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革命と真珠、ネックレス


1963年、パリ16区のポンプ通りに突如現れたブティック「ホワイトハウス」。
夜遅くまで開いているこの店は著名人やアーティスト、流行を追う若者たちが集い賑わう社交場として1960年代の伝説となっている。このブティックの創始者こそがミッシェルとモーリスのレノマ兄弟。

renomaはここから始まった。

「ホワイトハウス」にはイブ・サンローランやアンディ・ウォーホル、ピカソ、ダリ、ローリング・ストーンズの面々までが出入りしたという。それぞれのジャンルにおいて革命をもたらした彼らを強く惹きつけた「ホワイトハウス」もまた、ファッションの既成概念を鮮やかに覆してみせたブティックとして、数多くのアーティストたちと共振していたことになる。

例えばそれは、当時まだイブニングやフォーマルのイメージが強かったジャケットをデニムパンツに組み合わせるというドレスダウンの提案。アンディ・ウォーホルを経由して、いまや日本のセレクトショップ店員が元ネタを知らずに真似をできるくらい浸透したこのコーディネート法は、やはり革新的なものであっただろう。

と書きながらも、僕は1960年代のパリを生きたわけではない。ファッションにおける革新や革命などほとんど存在しない2022年の東京を生きている。

こんにちは、鶴田です。


” renoma “

– Manacor – [Pearl Necklace]
¥55,000-(tax included)

– Tahiti – [ Shell Nacklace ]
¥55,000-(tax included)



そのrenomaから、二種類のネックレスが届いた。右は淡水パールと人工パールをつなぎ合わせたもの。左は色や形が異なる二種類の貝を使用している。スターリングシルバー製のフックを留めれば二重巻きに見えるようなデザイン。



均一で正しい円を描くパールは人工のもの。いびつさのないフラットな表情で、レオナールフジタが描くような乳白色を人工的に安定させたような色味は、不思議と懐かしさや安心といった感情を呼び起こす。



一方、淡水パールは不揃いで、いびつなフォルム。湖で育てられたイケチョウ貝から採れるこの真珠はアコヤパールや南洋パールに比べると安価ながら、 先ほどの人工パールに比べると天然の真珠質ならではの輝きが立体感や奥行きを感じさせる。



丸いパールに取り付けられたチェーンを三角形と四角形のフックでつなぎ合わせると、二重巻きの構造になる。


リアルとフェイク、天然パールと人工パールの重ね付けと聞いて、勘の良い方はココ・シャネルを思い浮かべるかもしれない。彼女もまた20世紀の前半に革命を起こしたデザイナーである。

コルセットからの解放、女性の社会進出、既製服の躍進、フォーマルウェアのドレスダウン、ピーコック革命。20世紀の前半から中盤にかけて、社会情勢の一進一退に伴いながら幾度となく崩されてきたファッションにおける既成概念。そのストーリーからは確かに大胆なクリエイションとロマンを感じる。

しかし、クドイようだが2022年現在。ジェンダーはニュートラル、フォーマル&カジュアルの垣根は跡形もなく更地、一般人が着るハイブランドアイテム、富裕層が穿くダメージデニム。すべてが同じ地平に整列させられた現代ファッションにおいて、かつてモーリスやココが先陣を切ったような革命は、寝ても覚めても起こりそうにない。

女性の古典的な礼装などでよく見かけるパールネックレスを男性が身に着けたって、何ら可笑しくない、いわばカウンター不成立の時代なのだ。



「Tahiti」と言う名のシェルネックレス。フランス領ポリネシアの島・タヒチは青い空と海に囲まれた南大西洋に浮かぶ島だが、リゾート地のスーベニアのような顔をした貝殻のネックレスはジャケットスタイルに合わせても不自然ではないくらい、都会は全てを飲み込んでしまうだろう。



まだらなブラウンとフラットなライトグレー色をした、南国の貝たち。それぞれが固有の楕円形フォルムの中で、うっすらと口を開けて笑っている。



丸、三角、四角。無限の組み合わせを感じさせるようでもあり、元をたどれば根本的には三種類しかないという有限を静かに突き付けてくるようでもある。



いつものブレザースタイルに、ふたつのネックレスを重ね付けしてみた。











ブレザーとスウェットパンツ、男性的なアイテムと女性的なアイテム、英国とフランス。あらゆる変則コードの組み合わせは、既に先人によって明らかにされており、もとより新しい形の衣類の登場はちょっと今のところ期待できない。

現代に生きる僕らは、偉大なる先人たちが解き明かしたコード進行遊びの上で踊るしかないのか。



しかし、ちょっと待てよ、となる。「ホワイトハウス」にはネイルサロンが併設されていたらしいし、ココ・シャネルは粗野な男性服をヒントに新たな女性像を創出した。「過去に囚われない新しさ」「既成概念に対するカウンター」などと捉えてしまえば確かにそうだが、カウンターの様式ではなくその奥にある精神に光を当ててみるならば、偉大なデザイナーたちの根底にあるのは単純に「自由でありたい」という衝動だったりするのではないか。



まだ歴史にまみれておらず、カウンターどころか既成概念すらも意識しない若者たちにとって、renomaとは単なる「カッコいい服」である。店頭からあっという間に姿を消していったrenomaのブレザーを羽織りながら、嬉々とした表情を見せつけてくる20代前半の若者たち。事実、自らのブティックをオープンさせたときのモーリス・レノマは若干23歳だったという。

40歳を過ぎた僕がブレザーの上からネックレスを付けたそのとき。確かに感じたパールの鼓動は60年という長い年月と古い前例の壁を越えて、僕の心へ届いてきた。

「カッコいい服」を「自由に楽しむ」というシンプルな衝動に、複雑な理由は要らない。他人の逆を行く必要はない。隣人を否定しても自らの正しさは手に入らない。革命を求め過ぎない、戦争は要らない。自分自身の心の奥にある丸、三角、四角を組み合わせ、もしも他人とお揃いの形が出来上がったのであれば、その時は、ただ握手を交わせばいい。「ホワイトハウス」の中に流れていた自由な空気とは、おそらくそんなものだったのではないだろうか。

僕は単純に、今回のrenomaのコレクションを抜群にカッコいいと思っているし、ブレザーもネックレスもパジャマも着てみたい。「こんな感じで着てみたい」という想像が自由に膨らんでいく。もし、実際にそれらを着ることが叶わないとしても、そんな話をひとりでも多くのお客さんとしてみたいと思っている。

そして、そんな場所から生まれた衝動こそが、また新たな時代のファッションを作り上げていくのだと信じている。



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鶴田 啓

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