菩提樹の下で
いつも通りのMANHOLE。
いつも通り、緩やかに人が出たり入ったりしながら一日が過ぎてゆく。
こんにちは、鶴田です。


いつも通りの僕と中台。
ひとつ変わったところがあるとすれば、それは胸元にぶら下がっているもの。


木製のネックレス?
数珠のようにも見えるけれど。

今シーズン、CLASSから届いたこのネックレス。実際に菩提樹に生(な)る実が材料に使われている。数珠の中でも高級品のみ使われる菩提樹の実。
つまり、これはほぼ「数珠(じゅず)」だと言っていい。

様々な色・サイズ・形をした菩提樹の実が集められて、ネックレスを形作っている。

それらをまとめる紐はシルク製。長さの調節もこのシルク玉を使って行う。このあたりはネックレスらしい機能。
しかし、なぜ堀切さんは今回のコレクションに数珠ネックレスを入れようと思ったのか。昨年の、まだ暑い時期に展示会を訪れた際、その理由について堀切さんは何も語らなかったし、僕と河上もそれについて何も尋ねなかった。

” CLASS “
– CCCS20UNI A –
Color : NATURAL
¥88,000- (tax included)
カッコイイと思ったから買ってきただけ。だから、MANHOLEの店頭には数珠ネックレスが並んでいる。気になる方は、是非どうぞ。
というわけにもいかないので。
ここから先は仏教徒でもなんでもない僕が、このネックレスから個人的に感じることを書こうと思う。個人的に感じること、なので決して仏教の経典や教義と照らし合わせたりしないでください。そういう意図ではないので。
僕は手塚治虫が好きだ。

手塚治虫は僕が小学5年生の冬、昭和天皇が崩御された1か月後の平成元年2月9日に亡くなった。追悼特集ということで、テレビの地上波では「火の鳥」のアニメーションが放映され、それを観た僕は子供ながらに激しく傷ついた。同作のテーマの一つである「輪廻転生」という思想は、ちっぽけな11歳だった僕に対してあまりにも大きすぎて、受け止めることが到底できなかったのだと思う。
中学・高校と年齢を重ねながらマンガの神様が遺した諸作品に新しく触れるたび、手塚治虫はいつだって僕を傷つけてきた。「ブラックジャック」も「どろろ」も「アドルフに告ぐ」も「ガラスの城の記録」も、すべてが僕の心に茨の棘を刺してきた。
もちろん「ブッダ」も。
僕は仏教に詳しくないので、僕が知っている仏教についての知識はほとんどすべて手塚治虫の「ブッダ」から得たものである。しかし、手塚治虫は「この作品を通して釈迦、つまりシッダルタ(のちのブッダ)をめぐる人間ドラマを描こうとしているんです」と答えているように、ブッダの教えそのものではなく人間という存在そのものを掘り下げようとしたらしい。だから僕は菩提樹の木の下でブッダが悟りを開いたという物語は知っているけれど、その悟りの内容については何一つ知らないことになる。

仏教を知らずに、手塚治虫を知る僕。何十年も前に読んだきりの記憶で恐縮だが、「ブッダ」の中で僕が最も印象に残っているシーンは、物語の終盤。額の腫れに病むアジャセ王が初めてブッダに笑いかける場面。ブッダは握りしめた両手を天に掲げながら 「人間の心の中にこそ…神がいる…神が宿っているんだ!!」と叫ぶ。
「無神論者」ではなく「無宗教」な僕にとって、手塚治虫が描いたこの一コマは現在も心の奥に刺さったトゲのままである。

仏教の教えの中にある「色即是空」、すなわち「すべてのものは、永劫不変の実体ではない」のだとすれば、過去も未来も何一つ確かではない。ただ、分かるのは現在の自分。それすらも永遠に連続する現在の中の一地点でしかない。なおさら、ファッション。永劫不変なわけないファッションにおいて神とあがめるべき対象は、他人が立ち上げたブランドの中にも有名人が着用しているアイテムの中にも存在せず、只、自分の中にこそ存在する。
堀切さんがどのような意図で、この数珠ネックレスをコレクションの中に組み込んだのか、僕は尋ねなかったし、聴くつもりもなかった。それは、なんとなく「ファッションの答えとはそれぞれの心の中に、それぞれの形で在ってしかるべき」という気が既にしていたからでもある。
僕はこの歳になって尚、朝から晩までファッションのことを考えている。考えてはいるが、決してファッション原理主義者ではない。僕はファッションを信じない。僕はブランドを信じない。僕はブッダを信じない。これはまるで、昔、丸眼鏡をかけた長髪の男が歌った歌詞のようでもあるが、実際に僕はそう思う。その曲のタイトルは、たしか「ゴッド(god)」だったと思う。
もしも、あなたが熱烈なCLASSファンだったとして、堀切道之というファッション人間を信仰しているとして、このネックレスに触れる機会があったとして、しかし、その時に覗き込まなければならないのは菩提樹ネックレスの中にいるかもしれない神の顔では決してない。唯、自分自身の心の奥底で鳴る音を一音も聴き逃してはならない。
その瞬間は、二度とはやってこないのだから。
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鶴田 啓
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