遅れてきたエース
日中の気温が28℃まで上がるという天気予報。そんな6月13日、河上の出勤スタイル。
クロップド丈のテーパードパンツにレザーサンダルの素足履き。足首から涼を感じるコーディネートですね。
MANHOLEブログに「本日の出勤スタイル」みたいなコーナーは一切存在しませんが、こんにちは、鶴田です。
履いているのは河上が数年前から愛用しているF.LLI GiacomettiのFG166。「グルカサンダル」と言った方が名前の通りが良い同ブランドを代表するモデル。どの夏に見てもエバーグリーンな輝きを放つ、傑作レザーサンダル。
で、FG166愛好家の河上がお店で履き替えたシューズがこちら。
白いスエードのFG166 。
まだ寒い頃、FG166のカラーレザーシリーズと共にすっかり紹介したつもりになっていたけれど、よく考えたらブログ内では一切触れていなかった。カラフルな同期たちはあっという間にお客さんの元へ旅立っていったけれど、紹介していないからなのか何なのか、この白スエードだけがまだMANHOLEに並んでいる。この前、このサンダルを買ってくれたお客さんに「白スエードだけ、まだブログに登場していないですよね…」と言われて初めてハッとした。そうだったか、と。
そして、ふっと思い出した。
今から20年近く前、僕が前職の大型ストアで働いていたころ。販売員はローテーションで昼休憩やランチタイムを取るのだけれど、その指示を出すのは当時の店長。お昼の時間帯は、スタイリストのリース業務があったり、混雑を避けて朝一で来店される芸能関係の方がいらっしゃったりと比較的バタバタする時間帯。その瞬間瞬間で手が空いているスタッフを見つけては店長が「昼休憩に出て」と素早くサインを出す。フロアに残るスタッフの人数を確保しながら店舗運営を円滑に回すためのマネジメント業務だ。毎日の出勤スタッフは約十人。三回転で全員が昼休憩を取り終わるのだけれど。
ある時「あの~、鶴田さん。僕、まだ昼休憩に出てないんですけど…」と耳打ちしてくる後輩スタッフがいた。「え?そうなの、手ェ空いてるんでしょ?てか、さっきからずっと空いてたよね?もう四時半じゃん、たぶん店長も忘れちゃってるんだと思う。休憩、出な出な。店空いてるし、今。店長には俺が言っとくから」と遅めの休憩を促す。彼は苦笑いしながらタバコを吸いに出ていった。
そんな件があったこともあり、なんとなく彼のことを気にするようになった僕は、その後も幾度となく「休憩に出ていない彼の姿」を見かけた。また忘れられてる。目が合う。僕の方から近づいて行き「出な」と合図をする。「僕、存在感無いんですかね…」と彼は苦笑いしながらタバコを吸いに行くデジャヴュ。
店長が不在の日も、その日のフロアリーダーが必ず彼のことを忘れるのだ。 (※僕はまだ中堅社員だったので、ローテーションを回すことは無かった)四度目くらいに彼が忘れ去られているのを見た翌日、僕は店長に提案して「休憩ローテーションチェックシート」を作成した。
確かに彼は見た目やキャラクターが控えめな存在だったけれど、仕事は真面目にやる奴だった。同期がプレスやアシスタントバイヤーなどの花形ポジションへ駆けあがっていく姿を横目で見ながら、彼は果たして何を思っていただろうか。
しかし、入社から十年ほどが経った頃。彼はとある部署へ異動し、そこでメキメキと頭角を現した。同期らがポツポツと退社していく中にあって彼は今や出世頭となった。
真っ白なホーススエードのグルカサンダル。
ライニングの端正な作りも、日本人の踵が収まりやすいヒールカップも、サンダル木型「FAUSTO」の快適なフィッティングも、ブレイク製法で取り付けられた返りの良いソールも、伸び止めカンガルーレザーを挟んだ質実な耐久性も、ハイスペックなFG166の本質はそのままに。甲革は白いスエード。
もしかすると冬の木漏れ日の下で見るには、君は少しだけ白すぎたのかもしれない。しかし。
雌伏の時は過ぎた。
ウールパンツも穿き古したデニムを受け止めてなお、余りある存在感。春が過ぎ夏の日差しがやってくる頃、少し汚れて年季が入り、君は益々いい顔になっているかもしれない。
メンズの白いレザーシューズなんて、そんなに多くはないから靴棚に紛れ込んでもすぐに見つけてもらえるさ。この夏のローテーションには必ず入るはず。君の実力があれば、毎日の出勤スタイルなんて投稿しなくても、すぐに顔を覚えてもらえるって。
そう、いつだって、エースは遅れてやってくる。
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鶴田 啓
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