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ジャコメッティは砕けない



僕がMANHOLEに来て、半年が経った。
河上と中台が立ち上げたMANHOLEはこの夏で、三周年を迎える。

時の流れるスピードが年々速くなっていく気がする。

三年前、まだ河上がMANHOLEオープンの準備に東奔西走していたころ。なんとなくその品揃えの内容を知り始めた僕は「実に河上らしいセレクトだな」と思ったような気がする。CLASSやFRANK LEDER、NICHOLAS DALEYなど、現在もMANHOLEの中核をなすファッションブランドに混じって F.LLI Giacomettiの名前があった。河上は自分のことを「パンツが好き」だというけれど、実際のところ僕から見ると、河上は「革靴が好き」だと思う。

初めて河上と出会った十年前から、彼がスニーカーやカジュアル靴を履いている姿を僕は見たことが無い。当時僕が働いていた店にHEINRICH DINKELACKERのブダペスターや F.LLI Giacomettiのグルカサンダルを買いに来ていた記憶もある。そもそも、彼が十年前に洋服屋に入ったきっかけは、とある僕の先輩に靴の接客をされて衝撃を受けたかららしい。若い頃はストリートブランドを着ていたらしい彼を、本格的に洋服の道へ引き寄せたのは「革靴」だったのかもしれない。

こんにちは、鶴田です。



僕が河上と出会うよりも少し前、僕はF.LLI Giacomettiのシューズと出会った。当時僕が働いていた店に入荷してきたそのシューズたちは、作りも本格的だし材質も良い。しかし何よりもその佇まいは「今までに見たことのない不思議なテイスト」を感じさせた。英国やイタリア、フランスのクラシックブランドに勝るとも劣らないクオリティを誇る一方で、絶妙にファッション的な意匠・バランスを身に纏(まと)ってもいたのだ。

F.LLI Giacometti が入荷してしばらくが経ったある日、店内に大男が入ってきて「どう? ジャコメッティ。売れてる?」と尋ねられた。彼はF.LLI Giacomettiの説明を細かくしてくれたが、(それなりにシューズのことを勉強してきたつもりだった当時の自分にとっても)その言葉はほとんど謎の呪文でしかないほどに半分以上が理解不能だった。しかし、彼が語る言葉の端々からは「今の気分はさー」というキーワードが響いてきた。 F.LLI Giacomettiが纏っているクラシックかつファッションな空気感。その正体はこの人か、と思った。

F.LLI Giacomettiを日本に輸入する代理店の代表、秋山さんだった。



例えばGUIDIのPL1。僕はこの靴をクラシックだと思っている。どんな時代であろうと、そこにそのまま固定された状態で居続ける存在感。ある意味ではALDENの990やV-TIP、J.M WESTONのSIGNATURE LOAFER 180、HEINRICH DINKELACKERのブダペスターなどと同じなのだ。異様なほど力強い佇まいとは裏腹に、PL1は本質的にクラシックなレザーシューズであり、だからこそ僕は河上に仕入れてもらうように頼んだ。

一方でF.LLI Giacometti。 時代の気分と共に柳のように変化しながらも、その根底にはクラフトマンシップが脈々と流れている。移り気だけど、頑固。逆に言うと「クオリティコントロールさえしっかりとできていれば、時代の空気感=ファッションに左右されても構わない」という自信をF.LLI Giacomettiと秋山さんからは感じる。

きっと、そんなところが河上に合っているのだろう。河上とF.LLI Giacomettiを十年以上見続けてきた僕には、なんとなくそう思える。



MANHOLEに並ぶF.LLI Giacomettiの仕様は、基本的に河上が決めている。 本人は「ノリ」だと言い放つかもしれないが、しかし自分自身の中にある「気分」をキャッチするという作業は、一度心の奥深くまで潜る工程を必要とするかもしれない。形・生地・値段があらかじめセットされた状態で見せられるファッションブランドの展示会と違い、 F.LLI Giacomettiのようなファクトリーブランドの靴をオーダーするためには、世界中のトレンドやデザイナーの提案と擦り合わせるのではなく、個人的な気分の在処を明らかにしなければならない。

こうしてMANHOLEの店頭には様々な形のF.LLI Giacomettiが並んでいる。過去に河上が選んできたダイヤモンドパイソンのモンクストラップやカラーレザーのグルカサンダルをはじめ、MANHOLEのラインナップは一見すると奇抜で派手に見えるが、それでもあっという間にお客さんの手元に渡っていった。靴屋ではなく洋服屋でありながら、これほどまでに靴の提案をお客さんに受け入れてもらっている店を僕は他に知らない。



MANHOLEに置いてあるF.LLI Giacomettiは強い。 一般的に受け入れられやすいラインナップだとは決して言えない。しかし、それは伝統の重さをありがたがるだけではなく現在進行形の気分を共有するMANHOLEというお店と、その場に集う人たちの存在があってこその強さだと思う。世界的な状況の変化の中で古典的なコンサバ思考に拍車がかかり、定番モデルは強くなりファッション靴は弱くなったと囁かれることが多い現代において、強さとは果たして何なのか。歴史だけが強さの証ではない。

今の気分を提案できる秋山さん、クラフトマンシップの信念に基づきその気分を形にできるF.LLI Giacometti、お客さんや自分たちの気分に向き合う革靴好きの河上。そこにMANHOLEという場が与えられ、お客さんがそれらすべてを飲み込んでくれたとき、ファッションのためのシューズは初めて強くなる。



ジャコメッティは砕けない。
それは古典主義の目線のみでは測ることのできない強さでもある。





※ F.LLI Giacomettiの新作三型は、7/1(金)より店頭にて発売いたします。

※適正サイズをご案内するため、MANHOLEではレザーシューズの通信販売を受け付けておりません。フィッティングに関しては是非店頭にてお試しの上、ご確認ください。
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鶴田 啓

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