ねじ26

つい昨日のこと。LINEで知人宛にメッセージを書いていて「きゃ」と入力した瞬間に予測変換(サジェストワード)候補で「キャサリン・ハムネット」という単語(というか呼称)が出てきた。今までに「キャサリン・ハムネット」の名前をLINEで変換したことなんてあったかな…。仮にあったとしても「・(なかぐろ)」なんかわざわざ使わないはずだ。もちろん、キャサリン・ハムネット女史は世界的なデザイナーだし、知名度が高いことも分かっているけれど。Lineの「きゃ」で出ます?普通。と、なんとなく予測変換のアルゴリズムが気になってしまい、メッセージ作成はそっちのけ、僕は色んなデザイナーの名前の前半部分を入力しながら予測変換候補の現れかたを見るというつまらない実験を仕事帰りの電車内で始めてしまった。
同じ英国人女性デザイナーとして真っ先に思いついたので、試しに「まーか」と入れてみたらすぐに「マーガレット・ハウエル」が出てきた。なるほど。ヴィヴィアン・ウエストウッドは「ヴィ」の時点では出てこず、「ヴィヴ」と入れたら出てきた。他、女性デザイナー部門ってことで「そに」と入力してみたら、アルファベットで「SONIA RYKIEL」が出てきた。「ヴィヴ」は対抗馬がほとんど存在しないとして、「きゃ」なんて幾らでも候補がありそうなものなのに「キャサリン・ハムネット」は「キャッツアイ」よりも上か。「SONIA RYKIEL」に至っては「SONY」より上だった。なぜだろう。
ちなみに「まるた」と入れてみたが「マルタン・マルジェラ」の名前は出てこず、代わりに「マルタイラーメン」「丸出し」「マルタ島」「丸大食品」「丸太町かわみち屋」など、僕が検索・入力をしたこともないような単語が続々と現れた。「かわみち屋」は京都にある和菓子屋だった。アントワープの恨みをなんとか晴らそうと「どり」を入れてみたが、案の定「ドリカム」や「努力家」「度量」「ドリフト」に押されて、期待の「ス・ヴァン・ノッテン」は姿を見せない。さらに「あんど」の場合、「&」「アンドロイド」などに加えて「安藤サクラ」「安藤美姫」「安藤優子」「安藤忠雄」といった安藤勢に押されまくり、果ては「アンドレス・イニエスタ・ルハン」という「通常はイニエスタな人」にまで負けて「アン・ドゥムルメステール」は沈黙したままだった。
こうしてみると、必ずしも僕の携帯自体(android)が一方的にファッションに毒されているわけではなさそうだが、だとしてもアルゴリズムの謎は深まるばかり。一時期、Google検索で「東京 天気」「東京 コロナ」を押しのけて「東京リベンジャーズ」が筆頭候補に挙がる時期があって、僕は「いや、知りたいのは天気だから」とイラついていたことを思い出した。裏で大きなお金や人海戦術が動いているのか。SEO戦略は今や当たり前なので、それが良いとか悪いなんてことは今さら思わない。その一方では「不自然すぎて逆に悪目立ちしてしまうパターンもあるんじゃないのかなぁ」と思ったりする。
MANHOLEはSEO戦略に対して意識的に取り組んできたわけでもないし、そもそも僕らは「不特定多数の人に割り込みで無理やり認知してもらうブランド」よりも「少数でも特定の人にふと顔を思い出してもらえるような店」でありたいと常々思っている。人は人、自分は自分ってことでいいのだ。世界中に広がる大海原になるためには勿論強い力が必要だろう。しかし「みんながたまに水汲みに来る井戸」みたいな存在も悪くない気がしている。
そうそう、Google検索で「CLASS 堀切」と堀切さんの名前を探すと、前職時代の僕が3年前に書いた「MANHOLEの河上くんとCLASSの堀切さん」というコラムがTOPに出てくる。戦略的に動かなくても、調べる人って意外といるんだな。山手線に揺られながら、何事も自然にやれるのが一番いいなと思った。
鶴田 啓