プレーンすぎる
気付いたら、店内にカッコいい靴が並んでいました。
気付いたら、というくらい静かなフェードインになったのは、その渋いルックスのせい。地味?でも。よく見るとなんだか変。F.LLI Giacomettiにしては馴染みのない奇妙なフォルム。
こんにちは、鶴田です。
甲革のスコッチグレインにはそれなりの存在感があるけれど、にゅるっとした流線型のフォルムが二枚目と三枚目の隙間を付いてくるような、とらえどころのない顔立ち。
この明るさの茶靴を履くのも久しぶり。
英国のカントリーシューズみたいな、黄色っぽいミディアムブラウン。
かなり強めのアウトサイドカーブは、僕の様に足の小指側が張り出している人にとってはコンフォートに履きやすいはず。爪先へかけて斜めにラウンドしていくオブリークトゥ。
外側のカーブに加えて土踏まず部分は大きくシェイプされている、いわゆる内振りの木型。湾曲したこのソールや木型を見るとモディファイドラストを思い出す人もいるかもしれない。しかし、ALDENに比べると爪先部分は低くて細い。アメリカ矯正靴の合理性よりも、むしろ滑らかな曲線がエレガントな印象を与える。ワインブラウン色の半カラス仕上げは同ブランドの中でも珍しい仕様。デザイン、作り、ラストなど、ある意味では英国ヴィンテージシューズのような佇まい。
2穴や3穴のプレーントゥは英国のビスポークシューズを思わせるようなディテールのひとつ。タフな印象の型押しレザーが使われているけれど、アッパーを走る細かい運針やハンドソーンウェルテッドで取り付けられた張り出しの少ないコバ&ソールは エレガントなドレスシューズのそれ。
そもそも、レースアップのプレーントゥなんて「プレーンすぎて意外と履いたことが無い」という人が多いんじゃなかろうか。勿論、ALDENの990やUS NAVYのサービスシューズ、ポストマンシューズなど、アメリカ靴で思い浮かぶものがあるにはある。しかし、ドレススタイルのブラウンシューズでレースアップのプレーントゥなんて、靴棚に入っていない人がほとんどだろう。表革で、ということになると更に絞り込まれると思う。
それは、やはり「プレーンすぎる」から。
ブラウンシューズは、その出自ゆえに爪先に何かしらのデザインが施されているものが多い。Uチップ、フル/セミブローグ、ローファー、タッセルなどなど。たまにある茶色いプレーントゥはチャッカブーツだったりする。ストームウェルト付きダブルソールのカントリーシューズならばまだしも、ここまで削り込んだ木型のドレスシューズで「ブラウンスコッチグレインのプレーントゥ」という仕様は、この靴を見るまで僕の脳裏をほとんどよぎることのない組み合わせだった。
つまり、このシューズから受ける「一見地味だけど、よく見ると奇妙な感じ」の正体は「ありそうで、実際にはほとんど見たことのない感じ」という一言に尽きる。
派手なデザインがあれこれと盛り付けられた「変態靴」は数あれど、ここまでプレーンな「変態靴」は滅多にない。分かりやすくない分だけ、奥が深いかも。
とりあえず、履く人は自分が積み重ねてきたバランス感覚を駆使して料理すれば、それだけでかなり面白い仕上がりになるはず。
なーんて、ややこしいことを長々と書いてしまったけれど、自分だったら「杢グレーのスウェットパンツ」や「コーデュロイのショーツ+ソックス」に合わせてみたいな、って。もうイメージは広がっている。
ちょっと分かりづらいくらいが、わくわくする。実は個人的にかなり気に入ってます、この靴。カッコいい。
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鶴田 啓
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