前後不覚
ろれつが回らず、千鳥足。地面が揺れる、回る。そんな酩酊状態に陥るほど酒を飲んだのは、果たしていつが最後だったろう。
今日はそんなタイトルのブログですが、別に酒飲みの話ではありません。こんにちは、鶴田です。
CLASSから届いたパンツは、先日紹介したジャケットと同じ生地で二色展開。リフレクター糸入りのグレーと、ラメ入りのグリーン。ウエスト周りを見ると、前後でスクエアな段差がある謎のカット。そして、ジップ。そもそもこのパンツ、どちらが前で後ろなんだかよく分からないデザイン。とりあえず穿いてみる。
オーセンティックなバランスのニットからはみ出すレースシャツ。そこから伸びるスラリとしたシルエットが心地よい。膝下まっすぐ、裾幅25㎝のセミワイドストレート。
ロング丈のトップスも難なく受け止めるカッコいい形。膝丈のコートに合わせてもカッコいいだろうな。
シャツ一枚でサラッと。共生地のジャケットは紹介する前にすぐ無くなってしまったけれど、パンツ単品でも十分にインパクトがあるラメ入りのグリーン。
シルエットと生地はだいたい分かった。では、問題のウエスト/ヒップ周り。
ベルトループレス、ウエスマンレス、フロントジップレス。
股上、浅い。
段差があるカットのおかげで、椎間板あたりの位置まで駆け上がるハイバック。ヒップポケットはレス。そして、センターにはジップ。
鶴田も穿いてみた。
シースルーなウールカットソーを二枚レイヤード。インナーのタンクトップごと、三枚まとめてパンツイン。ベルトレスのパンツはタックインするトップス生地の分量をその都度変えていけば、意外と自在にウエストを固定できる。
そして、フロントスタイル。ウエスマンやベルトループは勿論、前開きが無いだけでここまでモダンな見え方になるのか、という感じ。モダニズム建築の思想がちらりと垣間見える。
セットアップで着てみると、パワーショルダーのジャケットとフラットなヒップラインのパンツが奇妙なバランスで成立しているのが分かる。
ちなみにヒップのセンターにジップを埋め込んだアイテムはどちらかというと女性服(婦人服のパンツやスカートなど)に多く、男性服で見かけることはほとんどない。
また、通常のローライズパンツは腰で穿く。パンツを腰で穿くとヒップは落ちる。しかし、このローライズパンツは前股上が浅いのに、後ろはハイバック。ヒップラインが腰の上部までジップでキリキリと攻め込んでくるので、全体のフィットは緊張感を保ったままだ。
しかし、このパンツ。「通常は前についているもの(ジップ)を後ろ側に付けてみました」とか「女性服のディテールを男性服に盛り込んでみました」とか、そんな小手先のデザインではない。堀切さんの自由な発想が男性服に新たなフィットを求め出したのだ。それを追求していく過程で立ち上がってきた矛盾をクリアするために、ジップというパーツが必然的に選ばれたのだろう。「男性服では通常、フロントに配されているはずのジップをヒップラインのフィットのために用いた」という方が正しい。
単なる逆張りデザインとはまったく異なる視点で生み出されたこのフィッティング。「逆だからいい」のではなく「前も後ろもどっちでもいい」というフラットな境地から見る景色は、深夜に泥酔して陥った前後不覚の状態と果たしてどう違うのだろうか。
「前後不覚」とは「物事の後先も分からないほど、意識が正常に機能していない状態」を指すらしい。
しかし、僕は思う。
物事の後先の真偽そのものを真剣に考えたことがある人間が果たしてどれほどいるのだろうか。正常の中にある異常を真剣に考えたことがある人間が果たしてどれほどいるのだろうか。「『先入観に囚われてはいけない』という先入観にすらも囚われてはいけない」ことがデザイナーの使命だとしたら、僕にとって堀切さんは正真正銘、前後不覚のデザイナーだと思う。
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鶴田 啓
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