ジャケットの後ろ姿
“MANHOLEのテーラードジャケット、Gary。この企画を進行する上で僕と鶴田さんが一番最初に決めたのは「本格的なテーラードに全く興味のない中台が着たいと思えるようなモノを、そして本格的なテーラードに全く興味のない中台が着続けてくれるようなモノを作ろう」という目標”
昨日の、河上のこの言葉通り。
三型あるGaryの中でも特にダブルブレストのモデルは中台を意識して企画した。8つボタンのダブルブレスト、英国生地屋のサージ、ネイビーチョークストライプ。迫力のある形、そして強い生地。現代のニュートラルな時代感とジャケット事情のなかで見ると、ひときわダイナミックな印象を与えるモデル。
こんにちは、鶴田です。
そんな僕らの想いを知ってか知らずか、入荷後に中台が「このダブルのジャケットが欲しい」と言い出した。
「着てみなよ」と僕は勧めた。とりあえず、今日着てきた洋服の上からでも、と。
最近、気に入って(ロンTのように)着ているニットポロの上からサラリと羽織る中台。「このままでも意外とイケるんすね」と言いながら、鏡の中の自分の姿を確認している。
そもそも、このジャケットは通常だとジャケット単品に成り得ないような顔立ちをしている。左胸の箱ポケット、フラップ付きの両玉縁ポケット、8つボタンのダブルブレスト。スポーツコートとして扱うにはドレッシー過ぎる。メタルボタン付きのブレザーならばいざ知らず、リアルホーンボタン/ネイビーのチョークストライプ生地ならば組下のパンツが欲しいところだ。
ただ、そこが面白いと思って企画した。必ずしもスーチングでドレッシーに着なければいけないわけではない。それが、この企画の肝でもある。
続けて、僕からいくつかのコーディネートパターンを中台に提案してみた。
中台にとってのデイリーアイテムであるジャージやFUZZY HATに合わせて着てもらう。加えて、最近彼がハマっているらしいドレスシャツ。少し前に、このブルーを自分で購入していた。そのリアリティ。
下半身の脱力感。その一方で、ジャージのトップスとして合わせても緊張感抜群のGary。まるで、英国ビスポークかのように構築的なシルエットと立体感。前胸からウエストシェイプ位置へ流れるようなラインが美しい。そして、ジャージへのコントラストへと続く。
もうひとパターン、彼に提案してみた。
中台の前職でもある古着屋のフィールドにGaryのジャケットを馴染ませてみた。ボロボロのブラウンダック、ヴィンテージのエプロン、そしてタンクトップ。テーラードジャケット。お互いが馴染まないもの同士だからこその融合がそこにある。
「こんなんでいいんですか?ハチャメチャじゃないすか。これでいいなら、何だってイケんなぁ」と笑う中台。中台が笑ってくれると、僕も気持ちがいい。
シャツ襟が無くても=インナーがタンクトップだとしても美しく立つ、ノボリ。首の後ろに吸い付いてくるような上襟の裁断やアイロンワークはテーラードアイテムの最重要ポイントでもある。圧倒的なジャケットの後ろ姿。
「中台が着たくなるようなジャケットを企画したかった」
厳密に言うと「中台と同じように、今まで本格的なテーラードに全く興味のなかったお客さんが着たいと思えるようなモノ」を僕らは企画したかった。それは、例えばスーツの組上のようなジャケット。セットアップが成立しないことで不自由な自由が手に入る。正解の一角を突き崩すことで、答えが無限のものとなる。 そして、今まで興味・関心がなかった人々の興味・関心を惹くためには、まず圧倒的なカッコよさが必要とされる。それは、蘊蓄や説明や知識ではなく、見た目がほとんど全てを支配する世界。
もしも、僕に洋服屋として(スーツを売ってきた人間として)河上や中台に対する一日の長があるのだとすれば、僕にできることは「やってみせること」。本当の意味での技術面は、この企画をサポートしてくれたプロフェッショナルな職人の人々にお任せするとして、僕は見た目を作る。そう思ってきた。
手八丁口八丁の説明よりも、むしろ後ろ姿の方が何かを雄弁に物語る局面があることは、洋服に限った話ではない。
まず、自分でやってみせて、その姿が本当に良ければ人は自然とついてくる。中台も本能的に分かっているのだろう。僕と河上が用意したジャケットを着た中台の、あるいはこのジャケットを買ってくれたお客さんたちの後ろ姿を見て、さらに興味を持つ人が増えてくれると僕らは嬉しい。
デザイナーズブランドの洋服に比べると各ディテールの作りの意味が密やかである分だけ、テーラードアイテムは背中で語る。
理屈だけど、理屈じゃない。口で言うのは簡単だけど、口に出すまでが難しい。
ひとしきりのコーディネートを終えた後、中台が僕に訊いてきた。「ジャケットの、この(ポケットの)フラップが外に出ているときと出ていないときがあると思うんですけど、それってどういう意味があるんですか?」
「それはね…」と、僕は答え始めた。
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