異形・増幅
毎シーズンのことながら、CLASSの展示会に足を運べば必ずと言っていいほど何かしらの「驚き」を持ち帰ることになります。2022年秋冬のコレクションを見て、僕が最も驚かされたアイテムを今日は紹介します。というか、上の写真がソレなのですが。
こんにちは、鶴田です。
上部半分はマットなウルトラスエード、下半分はもじゃもじゃのフェイクファー(ウール×アクリル)。ウルトラスエードの裏面にはコットン100%のカラーデニムをボンディング。脇の下にはカラーデニム面がパネル状に切り替えてある。上部・下部それぞれのフロントにはダブルジップ搭載。
さらに、上部と下部はスナップボタンの着脱で切り離すことができる。つまり、セパレートでも着用可能、というもの。
なんて複雑な洋服なんだろう。
ダブルジップ、ボンディング、デタッチャブル、フラットシーム、ショート&ロング、ニュートラルカラー&ヴィヴィッドカラー…。過去にCLASSが発表してきたアイテムを構成する様々な要素すべてがこの一着に詰まっている気がした。そもそも、どの部分から考え始めれば、このような形にたどり着くのかが分からないほどの異形。
とりあえず、シンプルに着てみる。
ジップをすべて閉めてシンプルに着てみても印象は変わらない。スリムな上部、膨らむ下部。造形のインパクトがしっかりと残る。こんな洋服は見たことないけれど、一方では直感的にカッコいいと思える自分もいる。
コンパクトな上部を生かしてデニム上下の中にレイヤードした中台。僕が着たときとは異なる意味で違和感が発動している。
試しにスナップボタンを外し、上下セパレートで着てみよう。
もじゃもじゃを取り外すと、圧倒的なショート丈に変化する。ハーフ丈のコートとレイヤードすれば、ぷかぷかのバランスが可愛い。
ツイードジャケットにもじゃもじゃ単品をセット。不思議と違和感が少ないのは、スコットランドのキルトみたいに見えるからかも。
いや…あるか、違和感。しかし、それは僕にとって好ましい形の違和感だ。
コートなのかブルゾンなのか、巻き物なのか。表なのか裏なのか。自然なのか、不自然なのか。様々な疑問がそのままの形で各所に混在する洋服。なんて複雑な形をしているんだろう。
上の写真、冒頭の写真と同じ洋服とは思えないほど、更に異形のフォルムに変わり果てている。しかし、ふと気づいた。
このフォルムを作ったのは一体誰だ?堀切さん?いや、違う。下半分を取り外して、キルト風に腰巻きしたのは一体誰だ?堀切さん?いや、違う。他ならぬ、自分自身じゃないか。誰に指示されたわけでもないのに、自ら進んで心と体を使い、このようなフォルムに変形させていたのは僕自身だった。
そこで、もう一度、気づいた。堀切さんが作ったのは、複雑な洋服なんかじゃない。むしろ、粘土のような洋服だと。僕は粘土を与えられた子供のように、夢中でフォルムを作ろうとしていたことに、気づいた。プラモデルでもジグソーパズルでもなく、粘土。 完成形を目指すのではない。心と体を使って遊ぶのだ。見た目の複雑さに心を惑わされてはいけない。そのシンプルな心の在り様を、これだけ複雑な形を使って提示されていたことに半年ぶりに気づいて、僕は少し震えた。
現在の世の中がどれだけ複雑でいびつな作りに思えようとも、僕らはやはり楽しむしかないのだ。自らの心と体を使って。それは極めてシンプルな考え方であり、とても本質的な行為だと思う。
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鶴田 啓
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