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xyzコート



少し前に河上が紹介していた「派手なパンツ」。

「何用に作られたのか全くわからないハリと厚みのあるベージュの英国生地、8本撚りウールコットン、ジャリジャリとした不思議な触感」と書いていた、あの生地。たしかにジャリジャリとした、圧倒的に強い生地だった。あの生地にはまだ続きがあって…。

こんにちは、鶴田です。


“ CLASS ”
– CCCA12UNI A –
Size : 2
¥264,000-(tax included)



同じ生地を使ったトレンチコート。ディテールを細かく見ていかずとも、圧倒的に強い存在感がビシビシと伝わってくる。



首元には何のために取り付けられたのか分からない華奢なジップ。そのジップでガンパッチなのかヨークなのか分からないパーツを閉じている。大ぶりな革巻きバックル、ニュアンスグレー色のボタン、肩からはみ出すくらい巨大なエポレット…生地に負けじとそれぞれのパーツが存分に主張してくる。それでも、各ディテールがあくまでも「全体の中の一部」にしか見えないのはこのコート自体がディテール先行で考えられた小手先デザインではなく、堀切さんが求める全体感に必要不可欠なものとして、そこにあるべくしてあるから。



剛健な表地から一転、裏地にはきめ細やかで上品なオフ白のコットン生地が当ててあり、ジップを開いて襟を倒すだけで胸元が別の顔を見せてくれる。



この裏地を表地に使ってステンカラーコートでも仕立てたら、さぞかし品の良い一着が出来上がるであろう素材を贅沢に(意味なく?)裏地に使うという発想。ディテールや生地の組み合わせが高い次元で(適度な違和感とともに)融合している。

しかし、やはりこのコートの本質はそこにはないと僕は思う。なぜなら、CLASSの洋服は「吊るして眺めるため」ではなく「着て楽しむため」に作られていることを知っているからだ。



本来は塹壕の中で着る軍服として生まれた(と言われる)トレンチコート。「カサブランカ」のボギーを引き合いに出すまでもなく、れっきとした男服である。英国の老舗が作るトレンチコートに、起源やお手本はいくらでもある。

わざわざCLASSが、堀切さんが作りたいと思ったトレンチコートは果たして何者なのだろう?



一つは生地。揺れるコットンギャバジンではなく、わざわざこんなに硬い生地を使ったおかげで、まるで彫刻のようにがっちりと固定されるシルエット。そう、やはりCLASSがこのコートで表現したかったのはシルエットというか、フォルムというか、造形というか、まるで建造物のように構築的なその形。



異様に太い袖。ボディのサイズに対して圧倒的にアンバランスである。このボリューム、このフォルムを表現するためにこそ、ジャリジャリに硬い生地が使われたのだろう。



ツイードショーツやエレガントな乗馬ブーツを合わせた河上。決して縦に落ちない、ドレープなどまったく生まない、異常なほど張りがあるコートのボリュームと、ほっそりしたブーツ。エロいフォルム。



5年前くらいにはネオプレン素材を多用した「コクーンシルエット」なる物が一部でトレンディになったが、あの丸みとは全く異なる破壊的な後ろ姿。前者がバルーン状の何かだとしたら、CLASSのこれは「岩」。やはり僕には建造物のように見える。



生地の硬さを売りにする洋服は世の中、いくらでもあるが、それらのアイテムの大半は「硬さを強調するためだけに、硬い生地を使っている」と思う。「ほら、床に置くと洋服が自立するくらい硬いんですよ」というためだけの硬さ。(もちろん、頑丈さだとか、経年変化が楽しみですよね的な価値は含まれる)ものフェチの世界。



「特殊な生地を使っています」「縫製にこだわっています」と声高に叫ぶブランドが作る洋服のフォルムがどれも似たり寄ったりなのは何故か。「デカい(オーバーサイズ)」「小さい(タイトフィット)」「長い」「短い」といったxy軸以外にも、シルエットが向かうベクトルはいくらでもあるはずなのに。なんなら、xとyの交差点にz軸を打ち立ててもいいくらいだ。

それは今がコラージュの時代だから。カジュアルウェアのアーカイブから盗んだ元ネタを切り貼りするだけでは、z軸は生まれ得ない。鉛筆一本、フリーハンドで描いた曲線が新しいフォルムを生み出したオートクチュールの世界は、もう何十年も前に凋落してしまったかもしれないが、それでもzに対して意識的かどうかでデザイナーとしての素養は大きく違ってくるだろう。ドレスアイテムやクチュール文化をスケートボードと同じ目線で楽しむ堀切さんだからこそ見えているフォルムがある。



素材のための素材。ステッチのためのステッチ。パーツのためのパーツ。そういった平面的な遊びではない境地から紡ぎだされるアイテムには立体的な楽しみがある。デザイナーとは元ネタのミックスアップやアーティストとのコラボレーションのみを生業とする人間ではない。

同じフォルムからの脱却、新しいシルエットの提案。ここまで立体的に遊ぶ堀切さんをして「僕はデザイナーなんかじゃない、一生素人です」と謙虚に言わしめる根底には、過去に革新的なシルエットを生み出してきた偉大なるクチュリエやデザイナーたちの影があるのだろう。それはディオールかもしれないし、カルダンかもしれないし、ゴルチェかもしれないし、マルジェラかもしれないし、アンヌ・マリー・ベレッタかもしれない。



しかし、少なくともこのコートを見たときに河上がほっそりとした乗馬ブーツを持ち出してきたのはおそらくz軸の意識からであろう。「こんなにも硬くてボリュームのある二の腕」「岩のようなフォルム」を生み出すことで、「ピタピタのレギンスを穿いてみたい」「更にごわごわのハードシェル素材のパンツを合わせてみよう」という僕らのアイデアを誘発するのだとしたら。

事実、この建造物のように無機質なフォルムから成り立つコートは雑なオーバーサイズですべてをうやむやにする洋服に比べ、1000倍ほどの破壊力で着る人の性差や体型を無効にし、新たなシルエットを与え、そして個性を際立ている。つまり、それは10×10×10のxyzである。「硬い生地=男っぽい」という平面的思考では辿り着けない境地。この視点こそがデザインであると、僕は思う。





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鶴田 啓

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