新年コート
七草粥は食べませんでした。
正月に限らず、季節ごとの特別感が薄れてしまっているような気もしますが。こんにちは、新年一発目のブログを書きます。鶴田です。
西ヨークシャで織られた野趣あふれるヘリンボーンツイード、重厚なブラス素材のバックル、リアルホーンボタンの控えめな光沢、肩甲骨まですっぽりと覆うボリュームのバックヨーク、たっぷりとマチを取った蓋つきのベローズポケット…。
S.E.H KELLYから届いたいつものトレンチコート。エポレット以外はいわゆるトレンチコートに必須のディテールすべてをばっちり搭載している。マイナーチェンジを繰り返しながらも、全体のデザインはほぼいつも通り。このブランドのブレない姿勢を感じさせる、ある意味では完成美の領域に到達しているコート。
この秋冬は北イングランドの自然を感じさせるヘリンボーンツイードが、実にS.E.H KELLYらしい表情に思えたので、数色ある中からこのベージュを買い付けた。
それにしても、トレンチコートってなんとなく正月っぽい。元を辿れば塹壕の中で着るミリタリー服なので、フォーマル要素があるわけではないはずなのに、なぜだろう。
中台はいつも通りの感じで、さらっと羽織って着るだけ。それでも、男っぽいバックシャンな背中~ウエスト周り。腰ポケット横から手を突っ込めるハンドウォーマー。大げさではないけれど確かに漂うミリタリーの重厚感。中台でLサイズ着用。
鶴田はSサイズ着用だけど、ジャケットの上からでもフロントボタンを留めて十分着られる。
ベルトでウエストを絞って、ボタンも一番上まで(チンストラップも)留めて。なんてことをやるうちに、この「前をキチンと閉める」感が正月っぽさの正体なんじゃないかと思うようになってきた。
バルカラーコートやダッフルコートのように「ボタンやトグルを一列だけ閉じればそれで終わり」というほどシンプルではない重厚さがある。まるで、女性が成人式に振袖をフルセットで着るときのような仰々しさ。新郎が披露宴でモーニングを着るときのような大げささ。
つまり、衣服が現代性を獲得していく中で同時に省いていく「手間」みたいなものを、いまだに全部備えているのが、このトレンチコートのような気がする。
ボタンを閉じて。ベルトを締めて。その上からベストを重ねて。インナーに着たパーカのフードまでかぶって。
そこまでして防寒性を高めるという工程の多さ、手間のかかり方。
ダウンジャケットのフロントジップを上げるだけで暖かくなれることが悪いだなんて全然思わないけれど、ひとつずつの工程を積み重ねていくことでしか風を(寒さを)防ぐことができないという古典的な人間の動きが、このトレンチコートをより魅力的なものに見せていることは間違いないと思う。
勿論、サッと羽織りたいときは中台みたい羽織るだけでいい。しかし、その奥に「ボタンを全部止めてきちんと着ることもできる」という迫力が感じられるから良いという場合もある。
ワンプレートで済ませることもできる時代に、重箱に入ったおせち料理を食べるような清々しさがこのコートにはある。年末にこのトレンチコートを買ってくれた20代のお客さんは、今頃コートのベルトをぎゅっと絞って冬の街を歩いていることだろう。
その行為に特別な意味なんてないかもしれない。しかし、自分で自分の襟を正すことができる洋服というものは「自分自身がこの時代にどういった態度で臨むのか」という初心表明のような気もして、だからこそ僕はこのコートを「なんだか正月っぽいな」と感じてしまうのだろう。
年明け早々に「新年のご挨拶」と律儀に店を訪ねてきてくれるお客さんたちのあたたかさを目の当たりにして、僕ら自身も襟を正して2023年に臨みたいと思っている。皆様、あけましておめでとうございます。
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鶴田 啓
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