フォルム、その形
ジャケットのプロポーションを説明するときに、たびたび使われる「構築的な…」という言い回し。主にイギリスのテーラードアイテムに見られる「肩パッドや厚手の芯地を副資材とするカッチリとした直線的な作り」のものを指す。つまり、硬い、鎧のようなイメージ。対照的に、イタリアのテーラードアイテムは肩パッドを抜いたり、芯地無し(センツァインテルノと言ったりする)で柔らかく仕立てられていたり、ソフトコンストラクションに分類されるものが多い。つまり柔らかい。ジャケットそのものの形よりもボディラインで洋服を着る感じ。もちろん例外もあるし、あくまで一般論の話だけれど…。
こんにちは、鶴田です。

僕の私物、日本のテーラーで仕立ててもらったビスポークのスーツ。多少の軽さはあるけれど、基本的には英国式の構築的なプロポーション。生地も英国フランネルだし。
一般的には、このスーツでも十分「硬い、カッチリしている」に分類されると思う。しかし、それどころの話ではない。ナニコレ?という次元で「カッチリしている」アイテムを、僕は見てしまった。
半年前のCLASSの展示会で。

上着だけソレに取り替えてみた。

いや、ナニコレ?でしょ。



肩パッドや芯地は入っていないんだけど、尋常じゃない硬さ。しかも、カッティングや縫製、トリックアートのようなディテールすべてがエッジになっている。

中台が今日着てきた洋服の上に着ても、同じ印象。
いつもだったら「自然に溶け込んでます」なんて軽口を叩けるんだけど、このジャケットばかりはそうもいかない。




しわひとつ入らない、まるでステンレス製の筒に体を通しただけのような、がちがちに構築的なフォルム。謎の出っ張り、突起、トサカのようにせせり立つ各所。洋服、というよりは彫刻ですか?いや、建築物?

「自立するくらい硬い服」というのは(レザーにしてもモールスキンにしても)よく聞く言い回しだけど。「立った時に、どんな形をしているのか」という視点でみると、このジャケットは着るために作られたというよりも、立てるために作られたんじゃないか、というフォルムをしている。
つまり、造形美。

「硬さの秘密は三層構造のウルトラスエード」なんていうと洗剤か何かのCMみたいだけど、裁断された部分の断面を見ると分かるように、ブルー・白・グレーの三枚をボンディングした生地がこのジャケットの圧倒的な「硬さ」を生み出している。


平べったい2Dの面と、テーラードの手法で立体的に作られた3Dのボリュームが、交互に僕らの感覚に襲いかかってくる。



まるでカッターナイフと接着剤を使った折り紙工作のように、2Dと3Dが複雑に絡み合い、これはもう、洋服じゃない。そんな思いが頭をよぎる。
ソフトなコンストラクションで仕立てられたイタリア服が着る人の体の線に寄り添い、そのボディラインをより逞しく美しく見せるのだとしたら、構築的な仕立てで作られた英国スーツが着る人に力強いショルダーラインと権威を与えてくれるのだとしたら。これは、このジャケットはもう洋服じゃない。
まるでフランク・ゲーリー建築の中に体を収めるような感覚。
構築と脱・構築が躍る造形美の中に自分の肉体をただ預けるだけ、という。

” CLASS “
– CCDS16UNI A –
¥198,000-(tax included)
「いつからか、デザイナーという仕事がマーケティングに従属する類の職業になり下がってしまった」なんてロマンを振りかざすつもりはないけれど。
堀切道之という人間の中にあるフォルムが具現化されたような、この物体。その使い道を構築するのは着る人自身である。どのような体型をしていようとも、この物体は作られたフォルムのままでそこにある。あとは魂のフォルムだけがモノを言う。
つまり、これは2023年春夏にCLASSが生み出した、渾身の「洋服」なのだと思う。
MANHOLE ONLINE STORE
MANHOLE official instagram
鶴田 啓
〒107-0062
東京都港区南青山4-1-3 セントラル青山003号室
M : info@manhole-store.com
T : 03 4283 8892