Nの行方
さっき、伝票に記入してあるゆうとの文字を見て、中台が言った。
「ゆうとが書いた『め』が『ぬ』に見える」
横にいたゆうとも言った。
「はい、僕にも『ぬ』に見えます!」
こんにちは、鶴田です。
NICENESSから届いたNNスパイラルバングル、BAXTER3(バクスタースリー)とBAXTER6(バクスターシックス)。3㎜幅の方がBAXTER3で6㎜幅の方がBAXTER6。
らせん状の曲線を生かしたデザインなので、当然、見る角度によって異なるフォルムの線が見える。写真上の角度から見るとBAXTER3(右)はS字、BAXTER6(左)は逆さ向きのハートマークに見える。
NICENESSチームが言うところでは、角度によっては『N』に見える曲線なのだとか。角度によってはたしかに見えるかもね、『N』。
6㎜幅のシルバー925を二本並べて、一回転半。パラレル状のらせんを描くこのバングル。二本あるうちの片方は綺麗に磨き上げた金槌で職人が打ち込みを入れた槌目模様。もう片方はダイヤモンド粒子のついた工具で打ち込みを入れたざらつきのあるマットな質感。手作業が生み出すいびつなテクスチャーの中で細やかな凹凸面が光を乱反射する。
刻印された文字もアナログな調子で愛嬌がある。
こちらは3㎜幅のシルバーを二列合わせた、細身のBAXTER3。印象が全く異なる。
写真を撮った後に「この角度なら、たしかに『N』に見えるな」と思いながら気が付いた。違う、この角度じゃない。逆、というか『N』ってどう書くんだっけ。指先で空中に『N』と書いてみる。たまにある、一つの漢字をじっと見つめているうちに「絶対にこんな字じゃなかったような気がしてくる」あの感じ。考えれば考えるほど、字が書けなくなる、思考の螺旋。
「 螺旋(らせん)とは三次元曲線の一種で、回転しながら回転面に垂直成分のある方向へ移動(上昇または下降)する曲線である」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
見る角度によって全然違う、三次元曲線。
たっぷりとしたシャツ袖の上から装着すれば、カフにもなる(腕が細い人向けだけど…)。
らせん状のバングルは着け方が難しい?店頭で「これ、どうやって着けるんですか?」とたまに訊かれるので、BAXTER6を使ってゆうとが実演。ご参考までに。
読み方に『絶対』が無いように、着け方にも『絶対』は無い。
手首さえ通れば、どのようにでも。
三次元曲線と二次元曲線をミックスすると当然、三次元曲線になる。異なるモチーフのバングルと重ねても、可愛い。
というNICENESSのNNスパイラルバングル、BAXTER3とBAXTER6。角度によっては『O』に見えたり『S』に見えたり『Z』に見えたり、もちろん『N』にも見えたり。結局、人間なんて、視座が多少変わることはあっても、自分が見えるようにしか見えないんだと思う。
BAXTER3とBAXTER6。二本の螺旋を試しに絡み合わせたら、数字の『8』に似たフォルムが出来上がった。しかし、これすらも『8』ではないのかもしれない。
例えば、それは『∞(無限大)』。
ゆうとが伝票に書き込んだ文字は『め』だったのか、それとも『ぬ』だったのか。中台が読んだ文字は『め』だったのか、それとも『ぬ』だったのか。 そもそも人は螺旋(らせん)で出来ている。人間の細胞中にあるDNAこそが二重螺旋の立体構造ではないか。
普通に生きていれば目線も交わすことなく通り過ぎていく人と人。狭い日本の中ですら、決して交差しないはずのパラレルワールドで何も知らぬまま生きていたかもしれないお互いが、東京・青山のセレクトショップで3年以上も一緒に働いている。そして、21歳のYが書いた『め』の字を、34歳のNが『ぬ』と読んだ。笑う二人の少し先、店内の隅っこには二つの『N』を描く螺旋状のバングルが二つ。
やっぱり世の中に『絶対』は、無い。
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鶴田 啓
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