強靭なパンツ
昨日、河上が紹介していたコーデュロイ素材のフレアパンツ。「パンツ」とは言ったものの、5-pocketパンツ型なので「ジーンズ」と言い換えてもいいかもしれない。商品の特徴は、前回のブログに詳しく書いてあるので、そちらをご参照ください。
こんにちは、鶴田です。
フレアシルエットの5-pocketパンツと聞いて、真っ先に思い浮かぶのはリーバイスの名品番、517と646。僕は高2のときに初めて古着屋でコーデュロイの517を買った。色はベージュだった。その頃は、父親が若いころに着ていたツイードジャケットをタンスから持ち出してセミフレアのコーデュロイパンツを履いていた。
フレア度が大きくワタリがユルい646に関しては(1990年代当時)オーバーサイズで腰穿きしている人が多かった為、僕のフィルターには引っかからずスルーし続けてきた。その反動か、517はネルシャツやスウェットに合わせるよりも、小綺麗なコーディネートで穿きたいと思っていたような気がする。
結局、自分のコアにあるものは大して変わらないのだろう。このフレアコーデュロイ5-pocketパンツもジャケットと思わずコーディネートしたくなる。
しかしながら、完璧なフィッティング。517と646を単純に足しただけではこうならない。
本格的なテーラードジャケットに合わせても美しいし、こうも見た目が良いと穿いている本人も気持ちがいい。見よ、この後ろクリースの落ち方。
5-pocketパンツにセンタープレスを入れてドレスアップ感覚で穿くというやり方は、大昔のジャズマンが始めたんだったかどうだったか、ちょっと忘れてしまったけど。昨日、河上が紹介していたイヴサンローランの写真のように、本来はカジュアルなワークパンツをエレガントに穿くという考え方は1970年代のパリをはじめ、イタリアなんかでも流行したアンダーステイトメントな着こなしのひとつ。
普通っぽいアイテムなのに、優雅。という。
昨日の河上もそうだけど、何気なくGジャンに合わせるだけで品があるこのパンツ。
一方で、いつも通りのノリでフレアコーデュロイ5-pocketを穿く、中台。ファンキーなサンダルと合わせているけれど、パンツのシルエットに緊張感があるからだろう。全身古着では辿り着かないポイントに着地している。
オーバーサイズのロングコートを合わせても、ワタリの緊張感と足元のフレアボリュームが全体を受け止める。やはり、517と646を単純に足しただけではこうならない。
同じ5-pocketパンツを穿いているけれど、僕と中台のコーディネートは真逆のようだ。ちょうどその間に、昨日の河上がいる感じ。そのどれもが成立するという点で、このパンツの懐の深さがうかがい知れると思う。
例えば、黒いパンツに茶靴。
白いパンツにライトブラウンのスリッポン。
後染めの501にチェリーブラウンのドクターマーチンといういなたさでもない。イタリア製のホワイトパンツに軽快なイタリア靴というエロスでもない。
このコーデュロイフレア5-pocketを穿くと、今までなんとなく腑に落ちなかった配色のバランスまでも、すべて覆されるようだ。中台と河上と僕の間にあるすべての可能性を一つずつ丁寧にまとめてくれるパンツ。
古着で探すには骨が折れる。
シルエットとディテールをミックスしただけでは辿り着けない。
例えば先述したサンローラン本人の5-pocketパンツルック。一見するとなんてことない。でもちょっとやそっとじゃ、絶対になれない。あの素っ気ないエレガンスに辿り着くまでにサンローランはどれだけの美意識を積み重ねたのか。
ぱっと見はシンプルなこのパンツの完成形を目指して、幾度となく(文字通りミリ単位の)修正を重ねた結果、517でも646でも684でもないものが出来上がった。それは「新しいベーシック」とか、そういった呼び名のパンツではなく、ただ単純にカッコいい5-pocketパンツ。
「ただ単純に形がカッコいい5-pocketパンツ」というものが如何に強靭な洋服であるかを存分に感じられる仕上がりです。現在の僕らが考えうる美意識の結晶を、実際に穿いて感じてみてください。単なる美脚パンツとは出発点そのものが違うので。
※” cantate ” – MANHOLE edition -[ 5P FLARE CORDUROY ]は2月23日(木)から発売します。
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鶴田 啓
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