深Vの洗礼
20年以上前、まだ二十歳やそこらの若者だった僕は友達にこんな話をしていました。
「トム・E・ヨークの『E』ってなんだか知ってる?」「知らん」「あれ、『エドワード』の『E』らしいよ。トーマス・エドワード・ヨーク」「マジで?めちゃカッコいいじゃん。じゃあ、これから俺らはジョン・ロブ派じゃなくてエドワード・グリーン派になるしかないな」「なんでだよ。グリーンウッドまで引っかけてくんなよ」
ネットもそれほど発達していなかった時代に、自伝本か何かでミドルネーム『E』の読みを知った僕は、当時、僕と同じくレディオヘッド狂だった友人に向かって得意げに語っていました。その友人とはつい三日前にも飲みましたが、彼はロブでもグリーンでもなく、スリッパと佃煮のアイノコみたいな靴を履いていました。
こんにちは、ツルタ・V・サトシです。
今日は深い話をします。
深い、Vネック。
首元が詰まっていないだけで、(いつもシャツやネクタイを身に付けているイメージが強い鶴田は特に)あっさりスッキリとした印象に変わる。そういえばジャケットのVゾーンって最近は深いものが主流なのに、なぜだかTシャツの首元は圧倒的にクルーネックがメインだった。だからなおさら新鮮に見える。
ワイドラペル、深Vゾーン、深Vネック。
袖幅が狭いTシャツも久しぶり。こういう形のTシャツを着るのは個人的にも20年ぶり。2000年代初頭に僕が着ていたのはベルギーのデザイナーブランドからリリースされていたものや、下着みたいなヘロヘロのHanesボディを古着屋が後染めしたリメイク品。
Vが深く、身幅が狭く、着丈が長く、袖幅が細いところまで同じ。巷では10年前ちょいにも前にも「セレブカジュアル」みたいな謎のワードともに、オーガニックコットンでペロペロに編み立てられた深VネックTが流行っていたけれど、僕はその流れを「なにがセレカジじゃ。誰に祝福されんねん」と馬鹿にしていたので、完全にスルー、涼しい顔でスーツにネクタイを着けていた。
そんな時代のことは一切知らないであろう、ヨシダ・V・ユウト。
無駄に湾曲していない彼の精神性が、深Vのラインをよりスラっと見せている。気がする。
他に、ミドルネームでカッコいいなと思うのはアーサー・C・クラークとか。
あれ、『C』はもしかしてクルーネックの『C』?
とにかく、深VをはじめとしてTシャツのネックにはいろんな形がある。クルーネック、Vネック、ヘンリーネック、タートルネック、モックネック、Uネック、キーネック、ボートネック。
その中でも、最も首元にスペースを生み出してくれるのが、深Vネック。
深いVの上に、浅い半円を描くチョーカーを。
深いVのインナーに深いUの字のタンクトップと深いUの字のビーズネックレスを。
深いVネックの上に深いUネックのタンクトップとさらに深い曲線を描くポーチを。
スリム&縦長&深VネックなCLASSの「CCDS09 UNI A」。ここ10年の間はほとんど見向きもされなかったバランスに、アメリカをほとんど感じさせないミニマルな素材のマッチング。目が詰まった微光沢のシルケットコットン100%。 U気味に開く深Vは、胸元のスペースに無限の可能性を感じさせてくれる。
勿論、一枚であっさりと着てもカッコいい深Vネック。新鮮なバランス。
フランス好きのヨシダ・V・ユウトに聞けば、もしかしたら「一番カッコいいミドルネームはジャン=リュック・ゴダールです」と答えるだろうか?確かに、僕は一時期、ゴダールの前にある「=」がカッコいいなぁと思っていた。(ちなみにこの記号を付すのは日本だけらしい、欧米ではJean-Luc Godardと表記)
だとしたら、ツルタ=V・サトシも悪くないか。でも、さっきの組み合わせからすると
ツルタ(U+U+Vゾーン+ビーズネックレス+ポーチ+深V)=サトシ、みたいな謎の式が出来上がってしまいそうで、なんだかメンドクサイ。
だから結局はコーディネート上のややこしいことは言わずに、トム・ヨークはトム・ヨークであるように、エドワード・グリーンはエドワード・グリーンであるように、2001年は2001年であるように、ゴダールはゴダールであるように、女は女であるように。
深Vは深Vである。
まずは着てみるだけ。洗礼を浴びるのは、それからで良いと思う。お試しあれ。
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鶴田 啓
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