風通し
風通し、そんなテーマで今日は書いてみようと思います。こんにちは、鶴田です。
おとといの河上と昨日の中台も紹介していた、Niccolò PasqualettiのSKIRTROUSERS。 3種類ある生地バリエーションの中から Niccolò Night 3Daysの最後を締めくくる、大トリの1着をご紹介。
ウールシルクの微光沢が色気を放つブラック。まるで紳士用礼服のように重厚な生地。
「SKIRTROUSERS」という名前のとおり、「スカート」と「トラウザーズ」を合わせたような特徴的デザイン。「インポートのデザイナーズブランド」を新しく仕入れるのはMANHOLEとしても久々だし、このタッチのデザイン自体がとても新鮮に思える、今の気分。
同じインポートブランド枠の中でもBLESSは「デザイナーズブランド」というよりも「生活まで丸ごと飲み込んだ実験的ファッションプロジェクト」という感じだし、NICHOLAS DALEYは「カルチャー色強めのコンセプトで伝統的な男性服をアレンジする兄ちゃん」という感じなので、 Niccolò Pasqualettiの作風は店内でも異彩を放っている。こういったムードでモノを作るデザイナーって、今ではもはや希少になってしまった感さえある。
「トラウザーズの股を裂いてスカートにした」というよりも「スカート裾部分の生地でトラウザーズの膝下を無理矢理作った」という感じの作り。したがって、股の下に生地は無い。
4~5年前に「裾にフロントスリットが入ったパンツ」がブレイクして以来、インポートデザイナーズブランド(や、それらをコピーするドメスティックブランド)各社は「洋服のどこにスリットを入れるか合戦」に諸手を挙げて参戦。トップス・ボトムス問わず、アイテムのありとあらゆる箇所をカットオフで切り裂き始めた。「腰骨の両サイドにカットオフスリットを入れたデニム」から「スリーブの途中にスリットを入れてポンチョのように着ることができるジャケット」まで、もはや切り込みの入っていない洋服はファッションにあらず。と言わんばかりの勢いで町中に溢れ出した。
繰り返しになるが、このアイテムはトラウザーズの股を切り裂き開いたわけではなく、スカートの足元を閉じて構築したという感覚の方がしっくりとくる。ちょっとした視点の切り替えがアイテムの出来上がりやムードを大きく左右する。
股の部分に大きな空洞がある、このぽっかりとしたスペース。男性がスカートを穿くときに感じる心許ない感じは、着る本人の気分に最も作用する点だろう。
股の部分に注目しなければ全体的にワイドな極太シルエットパンツに、或いは股上が深く股下が短いサルエルパンツに見えるんだけど。
前職時代にサルエルパンツをたくさん売ってきた鶴田も穿いてみた。その当時、僕がいたお店で取り扱っていたのはRICK OWENSからUMIT BENANまで、いわゆるコレクションブランドのアイテム群だった。20年ほど前には僕自身もCOMME des GARCONSの黒いサルエルパンツを穿いていた。そもそもサルエルパンツはイスラム圏の民族衣装にルーツを持つアイテムなので、ハイファッションの世界ではエスニックスタイルのひとつとして紹介されていたと思う。
実際に穿いてみると、着用感もシルエットもサルエルパンツとはまるで別物。
民族衣装をルーツに持つサルエルパンツの平面的なパターンはメンズ服のカッチリとしたシルエットに脱構築のニュアンスを加えてくれるものであったが、Niccolò PasqualettiのSKIRTROUSERSはスカートの足元をトラウザーズのように構築したものであるため、コーディネート全体に与える作用はまるで逆である。
スカート部分のカットが直線断ちの切りっぱなしのため、より鋭い印象に。
ウエストの2インプリーツがそのままセンタープレスに繋がっていく感じも、ヨーロッパのドレスアイテムがベースにあることを思わせる。
トップスに気軽なシャツジャケットを選んでも、どこかで全体の緊張感がキープされて見えるのは、SKIRTROUSERSならではのドレスアップ感覚。
先日のゆうとを見直してもお分かりのとおり、星条旗柄のブルゾンにこれほど心地よい緊張感を与えてくれるスカート兼トラウザーズは、なかなかないだろう。
ぽっかりと空いた股部分への視線が気になる人は、下に一枚ショーツでもパンツでもレギンスでもレイヤードすれば良い。
フォーマルチックな黒シルクにブラウンのコーデュロイなんてミスマッチもいいし、柄物でコントラストを付けてもいい。それも股部分からチラリ見えるか見えないか程度の話。
最初は気になるという人も、このアイテムを穿き慣れるうちにいずれは何かをレイヤードしなくても平気になるような気がする。スカートもレギンスも、かつてはそうだったように。
スカートとトラウザーズの境界線にぽっかりと空いたままのスペース。それは乱雑にカットオフされたスリット=隙間ではなく、丁寧に閉じることで作り上げられたトラウザーズの始まり地点。
トラウザーズにスリットを入れるのではなくスカートの空白部分にパンツを作ろうとする逆転の発想は、どこか建築的でもある。まるで採光窓のように見える上の写真。このスペースが採り込むのは光だけではなく、風。このようなアイテムが店頭に並ぶことで、MANHOLEの、ファッションの風通しはグンとよくなる。
勿論、着る人の感覚にも風穴を開けてくれるはずだ。季節の変わり目、窓を閉めるにはまだ早い。
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