怠け者のジャケット
楽な服、軽くて柔らかい服が最近好きになってきた鶴田です、という話は先週も書いた気がします。じゃあ、楽な服を好きになるのが初めてかというとそうでもない。僕は1970年代の終わりに生まれた、90年代育ち。今、20代の人達が思い浮かべる「90年代=ビッグシルエット」というイメージの真っただ中にいた、といえばいた。勿論、1990年代の潮流はビッグシルエットだけじゃないんですけど…。
少なくとも1990年代の前半まで、ジャケットと言えばゆったりとした楽なものが多かった。アンコン(unconstracted)の肩、くびれのないウエスト、言葉通り「羽織る」という感じのフィッティング。そんなジャケットを総称して、一部では「ローファージャケット」と呼んでいた気がします。
こんにちは、鶴田です。
「ローファー」とは(靴の話を持ち出すまでもなく)「怠け者」という意味。つまり「ローファージャケット」とはそういうこと。
何も考えたくない怠け者がテキトーにサッと羽織って済ませられるようなデザイン、作り、見た目。もう何年も前からトレンドとして売られている一部のジャケットにありがちな「羽織るだけでサマになる」という上着は数十年前から存在した。
むこうから歩いてくる、丸い人影。鶴田。いかにも「unconstracted」な肩線やドレープは、遠目からでも楽(らく)そうに見える。
襟元にかけて短いダーツ処理は施してあるものの、いわゆる「一枚袖」の作り。
着る人の肩幅に応じて落ちる袖は筒のように丸くて太い。
第一ボタン留めにすれば、ハーフ丈でも分かるくらい裾に向かって広がる緩やかなシルエット。
いびつな形のパンツやおんぼろのブーツに合わせても、どこかに着用者の「余裕」が漂う全体感。実際に着ていて楽。ハーフコートのような、アンコンジャケットのようなこの上着はm’s braqueから届いた、怠け者のための一着。ダブルブレストなので、上までボタンを留めてしまえばインナーとのコーディネートに気を使う必要さえない。どうせ見えないから。という怠け者の発想。…を意図してデザインされたかどうかは分からないけれど、少なくとも怠け者の鶴田にはそう見える。
フロントを開けて羽織れば、より一層ざっくりとした感じに。裾はひらひらと揺れるし、上襟なんて抜けまくり。もう、ホントに「ただ羽織っている」だけの感覚。
どの角度から見ても気が抜けているし、柔らかいコントラストのドッグトゥースがなおさら全体を柔らかく見せている。
しかし。いくら考える手間がなく着ていて楽だとしても、僕らは何でもいいわけじゃない。何でもいいけど、何でもいいわけじゃない。
昨日着た服がクローゼット付近にごちゃっと置いてあって、翌朝何気なく再び手に取る動きの中で僕らは無意識のうちに選んでいる。例えば、F.LLI Giacomettiの赤いスリッポン。これは色気もあるし着脱もしやすいし、ついつい連日履いてしまいがちなんだけど、それでもやっぱり「着脱しやすい」だけでは手に取らない。透明感のある赤さや、スポーティーなのにエレガントなトゥシェイプや、しっかりと歩行についてきてくれるように考え抜かれた設計が、僕らの気持ちを「これでいいや」を「やっぱり、これがいいや」に押し上げてくれる。
僕らは何でもいいわけじゃない。何でもいいけど、何でもいいわけじゃない。着心地がコンフォートで、コーディネートが難しくない洋服は世の中に五万とある。でも、楽であれば何でもいいわけじゃない。僕らはまず、カッコいい服を探す。結果的にそのアイテムが楽なものであれば、それに越したことはない。ただ、楽な服の中から一番カッコいいものを探すわけではないからその順番が逆になることはない。
m’s braqueが作るコンフォートジャケットは、怠け者の僕らにぴったりだ。着やすくて楽だからという理由でついつい手に取って羽織ったときも、やっぱりいい気分にさせてくれる。F.LLI Giacomettiのスリッポンも、エジプシャンコットンリブのソックスも、ノリで選んできた古着も、MANHOLEに並んでいる洋服はどれもそんな感じがする。テキトーにコーディネートしてもよさそうな佇まいでありながら、「着やすくて楽だから」以上のカッコよさを兼ね備えている。
もしかすると僕らは、MANHOLEは、極めて怠け者であるからこそ「楽に着てもカッコいい服」を集めているだけなのかもしれない。勿論、それは「楽に着ることができないけれどカッコいい服」と同列のものとして。
昨日着た服がクローゼット付近にごちゃっと置いてあって、翌朝何気なく再び手に取る動きの中で僕らは無意識のうちに選んでいる。「これでいいや」を「やっぱり、これがいいや」に押し上げてくれるものがクローゼット付近に散らばっている状態は、僕らのような怠け者にとっての理想かもしれない。m’s braqueが作るコンフォートジャケットは、怠け者の日常に落っこちているそんな風景にぴったりだ。まるで、大した手入れをしていないバサバサの髪を雑に束ねて玄関先に引っかけてあるコートをさっと羽織って出かけるパリジェンヌみたいな色気があるんだと思う。素っ気ないメイクに赤いリップだけをサッと塗るだけのような色気が。
それってホントに怠け者なの?そういう美学ではなくて?という件について僕らは深く考えない。なぜなら、怠け者だから。でも、僕らはカッコよさに対しては、意外と怠けていない。だからやっぱり、そういう僕らにこのジャケットはぴったりだ。
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