空白に立つ
夜更かしをすると、翌朝が朝寝坊になる。当たり前ですね。
朝寝坊すると、動き出しが遅くなる。動き出しが遅くなると、出かけるのがおっくうになってそのまま一日中家にいる。朝と夜、家の中と外の間にあるはずの境界がぷるんと溶け落ちて、誰もいない空白の上にただぽつんと立ちすくす。
そんな経験ありませんか?こんにちは、鶴田です。
MANHOLEでは創業以来、新品と古着の両方を品揃えし、それぞれを同じように販売してきた。
古着、と言われるものだって元は新品。「着る」という目的のために作られたものである以上、どちらも同じ「服」であることに変わりはない。新品にしかない「クオリティ」、古着にしかない「ノリ」の部分はそれぞれあるとしても、着てしまえばただの「服」。
例えば上の写真。どれが新品でどれが古着なのかなんて関係ない。関係ないし、実際に僕らの家のクローゼットはこんなもんだ。新品と古着で分けてクローゼットに収納している人なんて(多分)いやしないだろうと思う。実際に、この写真に写っているキャップは新品、パンツは新品、ベースボールシャツは古着。
色が褪せて生地が痩せたコットンネルのシャツみたいに、ヘロヘロのパンツ。しかし、これは今シーズンに入荷したばかりの新品だ。m’s braqueのシンチバック付きバギートラウザーズ。なんて切ない色をしているんだろう。
後ろ股上がやや深いハイバック、フロントには浅めの1プリーツ、筒状のセミワイドなシルエット。
同じく切ない色目のアーガイルニットや、真っ黄色のスニーカー、グッドバランスの黒レザーブルゾンに合わせてみると、すべての年代やブランド名が消え去ってしまう。新品/古着の境界線がぷるんと溶け落ちて、ただ服を着た人がそこにいるだけ。
そんな服を着た人が、ただ街を歩いているという日常風景。
ちょっとかしこまって、ジャケットを羽織りネクタイを巻いてみたところで結果は同じ。新品/古着の優劣なんてない、ただ服を着た人がそこに立っているだけ。
古着、古着、古着?
新品、新品、古着?
古着、新品、古着?
答えはm’s braqueのパンツを含めたすべてが新品。そして、この問いに全く意味がないことに気付く。
今シーズン入荷したm’s braqueのパンツはコットン100%のチェック生地をパンツとして縫製したあと、ヨレヨレに色が痩せるまで退色させ、そしてそれがいま僕らの目の前にある。このパンツが目指した地点は「ヴィンテージデニムの美しい色落ち」でもなければ「着古して男っぽく味の出た軍モノ」でもない。美化されたヴィンテージアイテムを目指していかないこの姿勢には、正直、意味がない。
意味のない経年変化。
僕らには知識や情報が乗っかり過ぎてしまったのかもしれない。こういった意味のないパンツを、例えば蚤の市でぽろっと見つけたとき、果たして僕らはこのパンツを素直に買うことができるのだろうか?新品、古着、値段、縫製、加工、ブランド名、そういった知識や情報を頭の中から一旦追い出して、パンツそのものを見ることができるのだろうか?
家のクローゼットでは新品と古着で分けてクローゼットに収納している人なんて(多分)いやしないだろうと思う。しかし、そのものを買う前の時点では、しっかりとそこに意識が働いてしまうのが現代人なのかもしれない。
朝寝坊して、動き出しが遅くなって、出かけるのがおっくうになるその前に、ごちゃまぜのクローゼットの中から迷わず掴み取り、素早く穿いてそのまま出かけられるようなこのパンツには、区別されるという意味がない。意味がないことの強さ、潔さ。このパンツは極めて古着っぽい新品ではない。ただ、服と服の間にあるはずの境界がぷるんと溶け落ちた、誰もいない空白の上にただぽつんと立ちつくしている。そして、意味や理由、区別に疲れた手のひらが繰り返し掴んでしまうような服だと思う。
優しい服。
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