未だ見ぬ春
台風並みの強さで寒風が吹いたかと思えば陽だまりはそれなりに暖かく、春の予感もちらほらと。僕が住んでいる板橋区の住宅街、路地のあちこちには白や黄色や赤色の花が小さく咲き始めています。
こんにちは、鶴田です。
ふんわりと首をかしげて、一着の洋服がこちらを見つめている。
昨日のm’s braqueに続いて、今日も白いコートのご紹介。純白リネンベースのm’s braqueとはひと味違う、オフ白にぼんやりとしたストライプが入ったコットン素材はFRANK LEDERから届いたダブルブレストのロングコート。ロングコート、とはいっても昨日のm’s braqueと同様に、シャツ生地のように軽いウェイトの綿なので、重々しさはどこにもない。
背中心だけが割ってある、素っ気ないバックスタイル。全長118㎝もあるロングな着丈がちゃんと細長く見えるシンプルな仕立て。
軽い素材なのでロングシャツを着るかのように、と昨日のm’s braqueと同じようにお勧めすることもできるんだけど、このコートは8つボタンのダブルブレストとボリュームのある襟元がもっとずっと力強い。軽快な仕立てだが、フォルムはあくまでもコート然としている。
台襟と一体化した小ぶりなチンストラップ。
肩に近い高さから始まる2列のボタンがミリタリーチックでパワフル。
洗いをかけた薄手のコットンクロスは、歩くたびにシワっとヒラッと揺れる。
そして、なによりも特徴的なのはスモールフィットなショルダーラインと裾に向けて広がるAライン。ミリタリー的マッチョ感覚は皆無で、むしろレディースのロングコートのように繊細なラインを描いている。
178㎝中肉の鶴田がMサイズを着用して、ジャストフィットの肩周り。
裾に向けて広がって見えるシルエットのとどめ、深いセンターベントと袖口のスリットが鋭く開いている。
アームホールも細めなので、それほどたくさん重ね着をすることはできないけれど、薄手だからこそ成立する肩周りのフィッティングは抜群に色気があってカッコいい。
出勤した姿そのまま。
「僕、このまま適当に着ます」と、スウェット・ネルシャツ・ジーンズの上からコートをバサッと羽織った河上。
ぐしゃっと雑に留められたチンストラップは、そこから下のAラインを予感させるコンパクトさ。
風に揺れてなびく軽快さ、しかし全体で見るとグラマラスなラインを描くロング丈のコート。
このコートを着用して写真を撮りながら、思わず僕の口をついて出た言葉は「なんか、退廃的な感じがするコートだね」だった。
多分、僕の頭に浮かんでいたのは1975年、ヘルムート・ニュートンによってパリのオブリオ通りで撮影されたイヴ・サンローランのスモーキングルック。夜の街でタバコをくゆらせているのは、スリム&ロングなジャケットにバギーパンツを穿いたビベケ・ヌドセン。
勿論、ル・スモーキング(タキシード)とオフ白コットンのロングコートとでは色も素材もアイテムもすべてが違う。しかし、この写真を撮ったヘルムート・ニュートンがドイツ人であるということを除いても、ル・スモーキングのルックがとらえた退廃的なムードはどこかでFRANK LEDERのこのコートに繋がっているような気がする。ドイツという国にある退廃的で暴力的でフェティッシュでエロチックなムードは、あるいはルキノ・ヴィスコンティが映画「地獄に落ちた勇者ども」の中で描こうとした世界かもしれない。ヘルムート・ニュートンがル・スモーキングルックの中で描こうとしたアンドロジナス=両性具有の美を、FRANK LEDERは(生地はいつも通りに当たり前のコットン素材を使いながらも)このコートのシルエットで表現しようとしたのではないか?
そうかもしれないし、全然違うかもしれない。僕の考え過ぎだろうか?しかし。
ちょっと女性的なラインにすら感じられるロング&フレアなシルエット。安直にドロップしたりしないストイックなショルダーライン。FRANK LEDERに固定観念を持っている人にこそ試してほしい。ある人々にとってFRANK LEDERというブランドは「木こり・農夫=牧歌的」なものかもしれないが、このコートからはFRANK LEDERのそうではない一面が存分に感じられる。
別にこのコートをアンドロジナスの雰囲気で着こなしてほしいと言っているわけではない。両性具有とは女性が自分自身の中にある男性を愛することであり、男性が自分自身の中にある女性を愛することである。つまり、自分自身の中にある未知の領域を探求し受け入れること。「FRANK LEDERの洋服なら、たくさん買ってきたよ」という人にも「俺のシルエットはオーバーサイズだよ」という人にも、未だ見ぬ領域はあるはずだ。
いつものシルエットに変化を加えてくれる洋服を一着受け入れるだけで、いつもの洋服の未だ見ぬ一面を発見することだってできる。「シルエットを構築する」という意味で、このコートは「ロングシャツ」としてではなく、是非「コート」として挑戦してみてほしい。コートにしか果たせない役割がある。ましてや、それが薄手の白いコートだなんて最高にエロティックでクールじゃないか。
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鶴田 啓
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