ご機嫌な春
気温は上がったり下がったり。晴れたり湿ったり。季節の入り口でワチャワチャする気候も嫌いじゃないです。春の陽気に誘われて、なんて言ってみたところで実際には肌寒い曇天もあるんだから、その日その日で自分のご機嫌を取りながら、うまく過ごしていけたらいいですね。
こんにちは、鶴田です。
今日は小雨がそぼ降る外苑前からお届けします。
天気の話題でジャブを打つ。冒頭からそんな気持ちになったのは、今日のお題がこのシャツジャケットだったから?切ない色目に納得、イギリスブランド・NICHOLAS DALEYから届いたアイテム。これまで個人的に何度か訪れたことのある英国の空は、いつだって曇天模様のイメージ。
リネン100%のこの柄は、タグを見ると「Summer Tartan」と書いてある。マドラスともオンブレとも違う掠れ方。そして品名を見ると「3 Pocket Collared Cardigan」。シャツジャケットではなく、襟付きのカーディガンか。まぁ、商品名なんてなんとでも、ものは言いようでしかない。しかし、カーディガンと言い切ってしまえば、どことなくシャツジャケットよりも高貴な感じがするからねぇ、言葉の魔力。
なにもサマータータンだからといって、襟付きカーディガンだからといって、切ない色目だからといって、イギリスっぽく着こなす必要なんてないのは、ご覧のとおり。
渋くて切ないムードのアイテムには、例えばポップで楽しい感じがする色・形・素材・シルエットを合わせてご機嫌を取ってみる。
大きく尖った上襟、丸くて小さい下襟、斜めに傾いたパッチポケット。切ないだけじゃないNICHOLASの味が随所に振りかけてある。実に英国製らしい素っ気ない作りの洋服に、これだけのオリジナリティを込められるNICHOLASは自分自身のご機嫌の取り方を熟知しているんだと思う。
NICHOLASのアイテム群は、一見するとどれもバラバラに見える。ダークレオパードのラップスカート、オーセンティックなカバーオール、クロシェ編みのベスト…そしてサマータータンの襟付きカーディガン。ハイ&ローなテンションが随所に混在しているけれど、しかし、そのどれもが他の何物でもないNICHOLASの洋服になっているという強さ。
例えば、切ないサマータータンのリネン素材には強いレザージャケットを合わせて楽しんでみる。
NICHOLAS DALEYというデザイナーの核にはジャマイカ系イギリス人というアイデンティティがあり、それを取り巻くかのように様々なカルチャーやルーツミュージックがある。しかし、それと同時に自らのバックボーンをこねくり回して洋服を作っているわけじゃない「ノリの良さ」がNICHOLAS DALEYの洋服にはある。
昨年末に原宿の某所で、NICHOLASにばったりと会った。たまたま立ち寄った洋服屋の店内だった。彼は僕の顔を見るなり「オーーー、ハー―――イ!久しぶり!」と満面の笑顔で手をぶんぶんと振ってきた。僕の方も彼につられて思わず「ハー――イ!ロングタイムノーシ―!」と咄嗟に大きな握手を交わした。しばらくの間、世間話をした。実際に彼と会うのは数年ぶりだったけど、比較的シャイな日本人である僕が思わず巻き込まれてしまうほどの「ノリの良さ」が彼にはある。
僕は職業柄、四半世紀もの間、洋服のコーディネートのことを常に考えて続けてきた。考え続けた結果、コーディネート云々の話は勿論あるけれど、それ以前に、そういったロジックを「ノリの良さ」が軽々と飛び越えていく瞬間がいくらでもあることを知った。知ってしまった。イギリスの天気は変わりやすい。そのせいか、イギリス人はあまり傘を差さない。サッと降り出した雨に抗わず、コートの襟を立てたりフードを被ったり、あまりに酷いようであればどこかの軒先で適当に雨宿りをしながら、それで済ませている。
そのうちに雨が上がることを知っているから。イギリスの天気と同じように人間の気分が変わりやすいことを知っているから。そういった意味で、NICHOLASが作る洋服は「強さ」と同じくらいの強度で「さりげなさ」を備えている。彼のノリはいつだってナチュラルなものなんだ。
この渋くて切ないムードのアイテム(もはやシャツジャケットでも襟付きカーディガンでも何でもいい)は、僕らのクローゼットに意外と入っていないタイプの洋服かもしれない。大きくとがった上襟、丸くて小さい下襟、斜めに傾いたパッチポケット。切ないだけじゃないNICHOLASの味(=強さとさりげなさ)が随所に振りかけてある。そして、この洋服は、他の洋服では補いきれない僕らの機嫌の隙間にそっと侵入してくる。ごくさりげなく、自然なノリで。今朝の出勤時。小雨がそぼ降る外苑前を、僕はカバンの中にしまってあった折り畳み傘を差さずに歩いた。なんとなくご機嫌だったから。日常の中にある、そんなさりげない気分がこのシャツには込められている気がする。
気温は上がったり下がったり。晴れたり湿ったり。季節の入り口でワチャワチャする気候も嫌いじゃないです。春の陽気に誘われて、なんて言ってみたところで実際には肌寒い曇天もあるんだから、その日その日で自分のご機嫌を取りながら、うまく過ごしていけたらいいですね。
見てよ、ゆうとのこの顔。超・ご機嫌。
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鶴田 啓
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