スカートの二種盛り
「いやぁ、疲れたね」
「疲れたな」
「何飲む?おれ、ホッピー。白」
「おれ、デカビタ割り」
「いきなりそんなん飲むなよ、お前、せっかく海鮮がうまい居酒屋に来てんだからさ。せめてビールにしとけって。のちのち日本酒に変えるとかさ」
「わかったよ…(うるせーな)じゃあ、赤星で」
「すみませーん!ホッピーの白セットと、赤星の大瓶?…でいいよな?。あ…グラスひとつで。お願いします!」
「よく来んの?ここ」
「3回目かな。ここの大将が魚にめっちゃ詳しくて、いつも活きのいい刺身を出してくれるんだよ。めっちゃうめーよ」
「ホントに?おれ、富山出身だよ?日本海側でさんざん美味いの食ってきたよ?ダイジョブ?」
「まぁ、食ってみなって。ほかの店に行けなくなるくらい美味いから、マジで」
「おー、きたきた。これ、スカート二種盛り合わせ?大将、これ本日のおすすめなんすよね?これ…ですよね?ありがとうございます!うれしー」
「すげーな、スカート二種盛り合わせ、たしかに食ったことないわ。うまそ…」
「こっちの黒いのがポリエステル100%のレオパード。ダークネイビー×オリーブの配色がソリッドで、微光沢のある素材が食欲を掻き立てるね…。え?なんですか?大将。あ、刺身に例えるとクロダイに近い、と。なるほど…。一般的な真鯛に比べるとクロダイには臭みがあると嫌う人も多いようだけど、低水温期のクロダイは越冬や産卵に備えて脂を蓄えており、ノッコミの時期(冬〜初春)に採れるクロダイは真鯛にも匹敵するほどのうまさ…、だってさ」
「たしかに、一般的なタータン素材のスカートに比べるとちょっとエッジが立っている独特の存在感が凄いね。張りのある素材もドライな質感も魅力的だ…。さっそく、いただきます!」
「うまっ」
「うンまっっっ」
「赤星にしてよかったぁ、これサイコーじゃん。香りと苦みの強いラガービールには勿論のこと、一緒に頼んだもつ煮や赤ウインナーとも食べ合わせがピッタリ。癖が強いものやジャンクな味に紛れても舌の上に十分存在感が残る独特の味…余韻。これは癖になるね」
「食感と香りが強いね、普通のタータンに比べて」
「たしかに、わかるーー」
「サラッとしたポリエステルは、これから夏に向けてもベタベタしなくていいな」
「そして…こっちが…?」
「なんでしたっけ、大将?えっと…リネン100%のサマータータン?ヒラメに近い繊細な味と香り、ってことですね?」
「確かに、淡い色目といい、自然な皺の質感と言い上品な白身魚を思わせるような佇まい…」
「いただきまーーす」
「うーーーーん、これはこれで…ヤバいな…」
「(30回くらいじっくりと噛んで、飲み込んだ後に)…ヤバい、美味すぎる」
「すみませーん、ホッピーのナカ、おかわりくださいっ!」
「僕も、赤星おかわりで!」
「いやー、凄いね、これも。淡白で上品」
「あっさりの奥に、うまみがある」
「ポン酢ともみじおろしで食べても美味そうだよな」
「いや、塩とライムなんかもアリじゃね?」
「(二人、声を揃えて)わかるーーーーーー!」
「ところで大将、このスカートはどこで水揚げされたものなんすか?…え?Made in England?」
「そーなんだーーー」
「いや、産地がどーのこーのって、いまどきそんなに信用してないっすよ、僕だって。でも、やっぱり食べてみて美味いと、妙に納得しちゃうっていうか」
「俺も昔、大分に行ったとき関サバと関アジ食べたけど、やっぱ美味かったもんな…。富山のホタルイカと氷見ぶりも、本場って感じがする。ちょっと特別というか」
「てか、おかわりしない?この二種盛り」
「いいね、どっちにする?」
「どっち?」
「いや、二種盛りで半分ずつじゃ足りないだろ」
「あ、なるほど。じゃあ、俺はサマータータンにするわ。そして、ビールやめて日本酒にする」
「じゃあ、俺はレオパードだな。そして、ホッピーから三岳のロックにシフトするわ」
「すみませーーーーん!たいしょーーーお、おかわりお願いしまーす!」
「いや、それにしてもお前、よくこんないい店知ってたな。すげーじゃん」
「俺も最初は友達に連れて行ってもらったんだよ。最初は敷居が高い感じがしたんだけど、実際に入ってみるとぜんっぜんそんなことない。むしろ、逆」
「たしかに…大将、いいな。サイコーだな。あれくらい自然な感じで出されなかったら、俺、スカートなんて一生食わなかったわ」
「だろ?」
「サマータータンもレオパードも、新たな可能性を感じさせてくれたよ。塩&ライムもいいし、ポン酢もいいけど、お茶漬けなんかもアリじゃね?」
「たーーーしーーーーかーーーーにーーーー」
「白飯とか、当たり前のものをめちゃくちゃに美味しくしてくれそうだよな、異次元のレベルまで」
「やべ、試してみたくなっちゃったな」
「訊いてみるか…?」
「だな」
「大将、スミマセン。レオパードとサマータータンをそれぞれひとつずつ、お土産にしてもらえますか?…あ、いい?大丈夫?ありがとうございます!あ、そんな立派なショッパーに入れてくれるんですね。透明のビニールの…え?ここ海鮮居酒屋じゃないんですか?!洋服屋……スミマセン、大将。ともかくご馳走様でした!」
(店の外に出るふたり)
「なんだよ、バカヤロー。洋服屋じゃねーかよ。びっくりしたわ!」
「俺だってびっくりしたわ…」
「お前、前にあの店に行ったとき、ナニ食べたの?」
「CLASSのスカートと…あと、BLESSのスカート」
「スカートばっかりじゃねえかよ」
「いや、なんか食べちゃうんだよ、あの店で食べるとスカートが異常に美味しく感じるんだよ」
「それはわかる気がするな…」
「やっぱり、スカートは外苑前に限るな」
「ばかやろー、それじゃ目黒のさんまじゃねぇかよ」
「ギャンギャン言うなよ。とりあえず、最高のスカートが手に入ったんだ。楽しもうぜ」
「だな、でもあれだな、やっぱり、スカートは食べるより穿く方がいいな」
「(二人、声を揃えて)わかるーーーーーー!」
MANHOLE NEW ONLINE STORE
MANHOLE official instagram
鶴田 啓
〒107-0062
東京都港区南青山4-1-3 セントラル青山003号室
M : info@manhole-store.com
T : 03 4283 8892