赤ウインナー
ニット、といえば秋冬に着るもの。
そんな先入観はたしかにあるし、実際にサマーニットの類はこれまで日本でも散々、洋服屋による啓蒙活動が繰り広げられてきましたが、それでもイマイチ定着しないアイテムの筆頭です。
夏にニットを着ると暑い。サマーニットは着られる時期が短い。そう言い切ってしまうと身も蓋もないんだけど、でも、河上がよく言うように「夏は何を着たって暑い」くらいに暑い。だったら「アレは暑い」「コレは暑い」と消去法で夏を寂しく過ごすよりも、「何を選べば、無理なく、楽しく過ごすことができるか」と考える方が建設的な気もする。だって、消去法で洋服を選んでも、結局は暑いんだから。
こんにちは、鶴田です。
なんて、冒頭からほとんど結論めいたことを書いてしまいましたが、今日はS.E.H KELLYのニットを紹介します。
半袖っ!ボートネックっ!
半袖っ!ボートネックっ!
サイドスリットっ!
半袖っ!サイドスリットっ!
(上着を羽織るとほとんどクルーネックにしか見えない)ボートネックっ!
なんて、少しでも涼しさを助長してくれるようなディテールを列挙、声高に唱えてみましたが、いや、だから、そんな話じゃないんだってばよ。「夏は何を着たって暑い」んだから。
ヨーロッパと日本ではもはや気候が違うんだから、「本国では湿度が低い」とか「朝晩の寒暖差」とか、そういった「なぐさめ」や「気休め」のような言葉を呟いてみたところで、何の足しにもならないことはもはや明らか。かといって「リゾートシーンで着る」的な架空のラグジュアリー設定提案にももはや無理がある。
と、考えると「夏は何を着たって暑い」というワードには現実的な実感が宿っている。
そしてこのワードは単なるあきらめのセリフではなく「夏は何を着たって暑い、だとしたらあなたはどうしますか?」という問いを含むセリフであると思う。
数年前のコロナ過。街中の飲食店が営業を自粛しているなかで、しぶとく営業を続けている居酒屋があった。池袋の片隅。他の店はどこも閉まっているけれど、どうしても酒が飲みたい。しかたなく足を踏み入れたその居酒屋で周りを見渡すと、他の客は見るからに不味そうなものを食べている。「(この店はきっと)何を食べても不味い」直感的にそう思った。
そして次の瞬間から、僕は壁に張り出してあるメニュー表をじっと見つめながら「何を食べても不味い」この店で、如何にして「(できるだけ)不味くないものを選ぶか」という作業に集中することにした。不衛生極まるこの店で、マグロ刺しはピンク色のういろうに見える。とりかわの焼き鳥は生ゴムに見える。僕がひねり出した答えは「赤ウインナー」だった。食べてみたら案の定、普通だった。ごく普通の(混じりっけなしの)赤ウインナーだった。当たりだった。もちろん、そんな店で生ビールは選ばない。管の掃除が不十分かもしれないから。プレーンチューハイを頼んだ。安全だった。
結局、この店にはその後何度も足を運んだ。コロナ過でも鬼の深夜(AM3:00)でも、普通に店を開けてくれているから。このお店のおかげで、赤ウインナーのおかげで僕は居酒屋難民になることもなく、無事にコロナ過を乗り切ることができた。
つまり、何を言いたいのかというと。
「S.E.H KELLYの半袖ニット」は「赤ウインナー」である。
「何を食べても不味い」「どっちみち変わらない」「何を買っても高い」「どこに行っても混んでいる」「誰と付き合っても長続きしない」そして、「何を着ても暑い」。
あきらめに人生を絡め取られたまま、今後もずっと味気なく生きていくのか。いや、違う。あきらめるにはまだ早い。僕には赤ウインナーがある。
宅飲みでは感じられない味わいがある。Tシャツではまかなえない味わいがある。だからこそ、僕らは「何を食べても不味い」居酒屋で赤ウインナーを選び、「何を着ても暑い」夏に半袖ニットを選ぶ。
おとなしく家に帰って寝ることはいつだってできる。しかし、いつだって僕らはもう少しだけ欲張りだ。欲張りの人生は燃えている。まるで赤ウインナーのような色で。
「いや、このニットを赤ウインナーに例えるのはさすがに無理があるだろ。値段だってウインナーの何百倍でしょ?」って?そりゃそうだ。このニットは赤ウインナーじゃない。ましてや食べ物でもない。そもそもこのニットに比べたら、赤ウインナーの方が何十倍も「熱い」。でも、「何を食べても不味い」居酒屋で食べるウインナーが大して不味くないように、「何を着ても暑い」夏にこのニットを着ても大して暑くないだろう。半袖だから。ボートネックだから。サイドスリットが入っているから。手洗いで丁寧に扱えば、自宅で洗濯することだってできる優しさがこのニットの味には含まれている。暑さですべてを諦める必要なんて、ない。
ポークエキス、着色料(クチナシ、アナトー、カルミン酸)、食塩、砂糖、還元水あめ、リン酸塩、pH調整剤などで味付けされた赤ウインナー。ブリテン諸島にてハンドフレームで編み立てられたコットンニット。「何を食べても不味い」環境だろうと、「何を着ても暑い」状況だろうと、代わりの効かない味がそこにある。
おとなしく家に帰って寝ることはいつだってできる。しかし、いつだって僕らはもう少しだけ欲張りだ。
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鶴田 啓
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