ドイツから遠く離れて
バイエルンの小さなミルで織られた縮絨ウール。
油脂分を含んだ羊毛を糸にして度詰めしながら織りあげ縮絨している為、撥水性/防風性のある丈夫な生地。
ババリアン・ローデンウールと呼ばれる、素朴でしなやかなこの素材はFRANK LEDERのコレクションに過去何度も登場してきた。
ベッドリネンやジャーマンレザーと並んで、FRANK LEDERの根幹を成す素材のひとつだと僕は思っている。
こんにちは、鶴田です。
今シーズン、この縮絨ウールを乗せたトラウザーズを展示会で見つけたので、MANHOLE EDITIONとして共生地のトラッカージャケットを作ってもらうことにしたそうだ。形は以前に展開していたモデル。(例えば1900年代前半の)歴史的な物語を感じさせる古典的なアイテムが多いFRANK LEDERのコレクションにあって、トラッカージャケット(いわゆるサード/フォースタイプのGジャン)は逆に異彩を放っているとも言える。
1960年代に、より現代的な労働着としてアメリカで生まれたトラッカージャケット。そしてFRANK LEDERが使う縮絨ウールの中でも(おそらく)最も軽いウェイトに分類される生地。インラインのパンツと上下揃えて着ても、ワークウェア特有の野暮ったさは微塵もない。このMANHOLE EDITIONは、今まで僕らが見てきたFRANK LEDERの中で最も都会的でモダンな顔をしていると思う。別にトラッカージャケットの組下ではないけれどセットアップにもできるテーパードパンツに関しては昨日とおとといでゆうとと河上が書いてくれているので、そちらの記事をどうぞ。
「Bavaria」(バヴェアリア)すなわち、ドイツ南部にあるバイエルン州はスイス、チェコおよびオーストリアに隣接しており、州の南部には雄大なアルプス山脈がそびえ立っている。州都はミュンヘンで、サッカーチーム「バイエルンミュンヘン」の本拠地と言ったほうが通りは良いだろうか?
ともかくバイエルン州には深い歴史があり、神聖ローマ帝国の時代から多くの物語を生んできた。ドイツの歴史に目を向け続けるFRANK LEDERにとって、独特の発色と質感を持ったこの縮絨ウールもまたドイツの物語の一部である。
そして、FRANK LEDERの洋服が内包する強い物語性は、日本のファッションシーンに対しても功罪含めて様々な影響を与えてきた。2010年前後の時代、或いは、FRANKが語るおとぎ話の中にだけ存在する「木こりルック」を日本の街に生み出してしまったかもしれない。そして、その姿はフランク本人がイメージすらできないところまで独り歩きしてしまったかもしれない。
しかし、2024年。一方で、このトラッカージャケット(&ワイドテーパードパンツ)からは、不思議と物語を感じない。先述したように、この上着の形自体が現代的なGジャンだからかもしれない。この洋服に使われている生地が軽量でしなやかで都会のリアリティに溢れているからかもしれない。
浪漫主義の埃っぽい物語よりもむしろ、若々しさ、合理的なミニマリズム、軽快なフットワークのモダンエイジを感じさせる。
いまから5年前にオープンしたMANHOLEは、日本におけるFRANK LEDERの見え方を変えた存在だと僕は思っている。まるで殉教者のように「木こりルック」に囚われるFRANK LEDERマニアを尻目に、MANHOLEは物語を超えたところでFRANK LEDERと向き合ってきた。F.LLI Giacomettiのようにモダン/クラシックで色気のあるイタリア靴と、BLESSのようにコンセプチュアルアート性の強いモード服と、年代は新しいけれどゴキゲンなフィーリングに包まれたレギュラー古着と、FRANK LEDERの洋服がひとつのショップの中で蜜月の関係になった時、物語は物語を超えて新しい物語となる。
木こりや吟遊詩人や農夫が登場するイメージルック通りにFRANK LEDERの洋服を勧め、売ることを、僕らはしてこなかった。ドイツから遠く離れて、東京・青山の片隅でFRANK LEDERのバランスは生まれ変わった。
僕はMANHOLEの中にいる人間だけれど、現在は週一出勤なので、ある程度の距離を以てこの穴蔵を外から眺めている。だからこそ、そう言える気がする。
ドイツで生まれた物語を元に、ベルリンで新たな物語を紡ぎ上げてきたFRANK LEDER。そして、ドイツから遠く離れて、東京という大都市の中で物語の続きを編み上げてきたMANHOLE。
MANHOLE EDITION、すなわち「別注」という響きの陳腐さはある意味で東京という大都市が抱える圧倒的な物量・情報量が生み出したファッション的副産物だ。しかし、EDIT。「編集する」という意味の英単語は、紡ぎ上げられた糸を編み立てて面にするというイメージで僕の心を捉えてくる。そして、この過程の中で忘れてはならないのが「(東京に住む)僕らが」という主語の存在に他ならない。
本来「別注」とは「他の店で売っていない」という単純な意味では使わないと僕は思う。「(東京に住む)僕らが」「リアリティとともに」「届けたい相手がいる」という条件下で編み上げられたものこそが、つまりMANHOLE EDITIONである。ベルリンで紡ぎ上げられた糸が僕らのフィルターを通して面に変わり、そこから先は立体になるのを待っている。
青と黒の縮絨ウールで作られた布切れに身体を通して立体に変えるのは、着用者であるお客さん自身だ。そのときこそ、この物語は本当の意味で僕らのものになる。物語は死なない。そして遠く離れた異国物語の延長線上で僕らはみんな自分自身の物語を生きている。このトラッカージャケットが放っている同時代性の根源は、その点にこそある。
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鶴田 啓
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