この靴を履いてどこへ

今シーズン、格式高い仕様の靴を一足用意した。
FG602、キャップトゥオックスフォード。で、甲革は黒のフレンチカーフ。
木型は英国のビスポークシューズを参考にして作ったハイアーチ+オブリークトゥの短靴用木型:GRIGIA。内に振った(人間の足の形状に合わせた)靴を作り続けてきたF.LLI Giacomettiだが、この木型の場合はより内に振った作り。裏から見るとわかりやすく、ぐにゃんとしている。
FG602は品番。キャップトゥオックスフォードというのは内羽根式のキャップトゥ。
フランス:DUPUY社製のANILOU CALF。
完璧に舗装された道路の上に暮らす我々がイメージするのはなかなか難しいけれど、黒は茶色と比較して傷や土埃が目立ちやすい。「内羽根式のシングルソールの黒いスムースレザーの靴を履く」という行為は、履いていく場所が「靴が汚れない、ソールへの負荷が少ない、整った場所であるというのを前提としている」ことを表している(いた)んだと思う。例えばジャケットのポケットにフラップが付いている場合は屋内に入る時にポケットにしまう、ドレスシューズは全体でなく汚れやすい部分をピカピカに磨けば十分、裾上げはシングルよりもダブルの方がカジュアル、礼装用のオペラパンプスが黒のエナメルで薄いソールがついている(靴墨を使う必要がなくソールが削れるような場所で履くことを想定していない靴)、なんていうのもわかりやすい例なのではないだろうか。
で「格式高い」というのはよりフォーマルということ。
式典に参加する習慣のない我々日本人庶民の日常的、あるいは非日常的な具体例を挙げるのは難しいけれど、一言で表すならば、祝いや別れの場で自分や相手や伝統に対する気持ちに集中するための装い。
フォーマルというのは本来相手に対する敬意や気遣いで、ドレスウェアのルールは紳士的(それ故に皮肉的)で合理的(結果的に装飾的)なのだろう。
さて、オブリークトゥ。
日本人の足の形は大きく分けて「エジプト型」「ギリシャ型」「スクエア形」と呼ばれる3つのタイプに大別できるそうだ。で、エジプト型の足のように小指から親指にかけて斜めにカットされているスタイルがオブリークトゥ。靴の中で指をしっかりと動かせることもあり、健康靴の定番の形として用いられる。
また「参考にした」と前述したとおり、ハイアーチ+オブリークトゥは英国のクラシックなビスポークシューズとしても見られるスタイルのようだ。
内外の異なる人間の足の形に合わせて作るため、捻じれて曲がって見えるのも特徴。
この「捻じれて曲がって見えるような構築的で立体的な構造」により、吊り込み(木型に合わせて革を成型していく作業)が非常に難しい、らしい。高価で繊細な革だとそのハードルは余計に上がるだろう。
「この素材は高いぞ!」と自覚しながら革(しかもライニングが張られている)を曲線的で立体的な物にそわせて皺なく伸ばす作業は想像するだけで、難しい。
それを既製靴として製品化することのできる、高い技術力と自信を併せ持つ職人を抱えるF.LLI Giacometti。

と、格式高い内羽根式の靴でもデニムやチノパン、ジャージやスウェットに合わせちゃいましょう!
お高く止まっている方々が履いている靴を雑に履くのはなんか気持ちいいし、外羽根のダービーシューズよりもボリュームがなくてスマートだしな。
なんていうのは別に21世紀の洋服屋が始めたことじゃなく西側諸国の人たちがそれよりも前にやっていたことが想像できるので割愛。オペラパンプスの紹介をした時に書いた通り、renomaがジャケットにデニムを合わせて提案していたのと同じような感覚なんだろう。



で、毎度恒例WHEELIE代表からの提案の一つに「河上、内羽根のFG602もダブルソールのFG503も気に入って履いてるみたいだけど、FG602もダブルソールに出来るぞ!」というのがありました。
確かに、面白いかもしれない。




という流れで作ったFG602のDOPPIO(ダブルソール)です。
シングルソールのキャップトゥオックスフォードのミッドソールとアウトソールの間に張られた全く必要のないもう一枚のレザーは「道具としての屈強さ」以外の装飾的な要素も加えてくれるでしょう。
ただ、どちらかというと屈強さではなく装飾的な部分を楽しんでほしい。
地味なマイナーチェンジだけど、意味を持つ靴だからこそ意味のないディテールはきっと全体の印象に表れる。これは一見冷たく完璧なあの人が時折見せる暖かく柔らかい隙のようなものだ。
チノパンにスウェットに内羽根式の靴、デニムにシャツに内羽根式の靴のように。
例えば、仕事着としてではなく、普段着としてのクラシックなトラウザーズにダブルソールの内羽根式の靴。
例えば、礼装としてではなく、普段着としてのベルベットにダブルソールの内羽根式の靴。
靴下から始まる合わせ方次第、履く人次第でどこにでも行ける靴。
さて、この靴を履いてどこへ行こうか。

Forma:GRIGIA, SUOLA IN CUOIO DOPPIA
¥144,100-(tax included)
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河上 尚哉
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