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他人のビスポーク




たまに他人のビスポークを買うことにしている。
僕らのような庶民とは生まれや育ち、社会的地位等の文化レベル/資産レベルなどが根底から違う人たちが様々な目的をもって誂えた洋服が、何故か日本の典型的一般家庭出身32歳が借りてる賃貸アパートのクローゼットにかかっている。分不相応の極みだと思う。
そんな文化レベルの違う人たちが誂えた洋服だから、奇天烈なものも中にはある。
この前原宿の古着屋さんで見かけた紫のフランネル/金釦の2BブレザーのGieves & Hawkesは流石に買えなかった。お店の人は「この人はよくこういうのをオーダーしてる。」と笑いながら教えてくれた。

僕らはデザイナーでもパタンナーでもなんでもないので、「作りがどうこう」や「中身がどうこう」といった洋服の構造的美しさを学ぶために洋服を買っているわけではなく、単純にかっこいいと思ったものがかっこいいと思える範囲のサイズ感で着られるようであれば買うことにしている。
ので、普通に普段通り着ている。ビスポークだろうと高級メゾンだろうと、古着として世に出ればその瞬間にそれはただの一枚の古着だ。大切に着ていきたいとは思うけど、畏る必要はそんなに無い。
もちろん似合わないものもあるけど、買ってすぐに似合わない物を買うのはとても楽しい。

生きる時代も国籍も違う人間が誂えた物だから当たり前のように僕らの体型には合わない、合っているつもりで着ていてもやっぱりどこかが致命的に合っていない。
「合う/合わない」とは一体なんなんだろうかと考える、面白い体験が出来る。
自分の体型に合わせて細かくお直ししてもいいんだけど、最近は太りまくってるから体型が落ち着くまで我慢してる。その内「直さなくてもいいかも。」と、思うこともあるかもしれない。


ちなみにこのARNYSのビスポークは中台へのちょっとしたボーナスとして買って渡した物だ。
彼の感覚的着こなしは、僕にいつも勇気を与えてくれるし「このジャケット、なんかよくわかんねーけどかっこいいな!」という中台を見ていると少しだけ、安心する。






「自分がかっこいいと思うものを買って普段通り着る。」というのは、僕らにとってすごく大切な行為だ。
「かっこいい。」という物凄く様々な要素が絡み合うひどく曖昧だけど確かにそこにある感覚を、買って普段通り着ることで自分のものに近づける。

本でしか読んだことの無い、写真でしか見たことの無い、映画で見たことしかない、文字でしか見たことの無い「かっこよさや美しさ」を表現するディテールやパターン、裁断や縫製やアイロンなどのテクニック、今では作ることが難しい生地。
僕らは自分で洋服を作ることが出来ないので、それを頑張って頭で理解する必要は無い。
目で見て手で触れて、体が覚えてくれればそれでいい。





87年に作られた、ぽっこりお腹のAnderson & Sheppard。
77年に作られた、僕みたいな体型のTommy Nutter。

この2着は僕に「英国モノ」を体感させてくれた気がする。

と、色々書いているけれど、所詮僕が着ているのは僕が誂えたものでもなんでも無い「他人のビスポーク」だから、それぞれのテーラー本来の良さを僕がお客さんに伝えることは出来ないし。
加えてまだまだ知らないこともたくさんあるし買ったことがないもの、見たことがないものも山ほどある。
テーラードは終わりが無くて楽しい。





少なくとも「自分が誂えたビスポーク」だろうが「他人が誂えたビスポーク」だろうが「高級既製服」だろうが「デザイナーズブランドのジャケット」だろうが「古着で見つけたよくわからないシャバいジャケット、なのに何故かかっこいいもの」だろうが。
自分が「いいかも。」と思うものはそれぞれの良さを探してそれぞれをかっこよく着ることの出来る自分でありたい。

自分で一つのものすら形に出来ない以上。
古き良きものだけでは無く、今。
自分が「かっこいい」と思う物を作ってくれる人を大切にしていきたい。



” cantate “
– The Tropical Jacket – ¥192,500-(tax included)
– The Tropical Trousers – ¥82,500-(tax included)




cantateが毎シーズンコレクションにラインナップする毛芯仕立てのテーラードと、その組下のトラウザーズ。
先シーズン紹介したジャケット&トラウザーズの春夏モデル。

生地は経糸に2/60、緯糸にモヘヤ30%の1/30を採用したモヘヤトロピカル。
山栄毛織で50年ほど前の生地を現代に復活させている。
山栄毛織でしか作ることのできない、ゆっくりと丁寧に織られた生地は、光沢・涼感·ハケ感・ハリ感すべてのバランスに優れた生地だ。

もちろん優れているのは生地だけではない、このセットアップにはデザイナーが考え、日本の職人が形にする「cantateのテーラードとしての意匠」が詰まっている。

中台が写真で着用しているのは、トップグレーカラー。
今季はcantateによる初の試みとなる、特殊なブラックカラーも用意した。
MANHOLEでは盛夏に向けて、その” GREEN BLACK “と名付けられたカラーの生地を用いて2TUCKのトラウザーズをオーダーしているので、後日改めて紹介させてほしい。


このセットアップに「コロナ禍だからこそ」とか「スーツを着用する機会が減った今」などの、一過性の売り文句は必要ない。
テーラードが好き、あるいは興味があり、cantateデザイナー:松島さんのモノづくりに共感する全ての人に向けて作られた一着である。










河上 尚哉

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