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回らないでいる



過去のブログでチラッと登場していた、FRANK LEDERのセットアップ。

そのときはチラッと脇役、助演男優の働きでしたが、今日はこのセットアップが主演俳優です。実際、このジャケット&トラウザーズには主演級の実力があるのだから、当たり前というか、満を持してって感じですかね。

こんにちは、鶴田です。



レザーシューズを履いて、ドレスシャツを着てタイドアップすれば普通にスーツとして成立してしまいそうな分厚いチャコールグレーフランネルのセットアップ。



でも、よくよく見るとラペル周りがミョーにプカプカ浮いてる気がするんだよなぁ。



ってことで、今日の主演はFRANK LEDERの(ちょっと不思議な)セットアップです。



ボタンで留められたラペルをはずすと、ノーカラーのいびつなVゾーンが姿を現す。



肉厚で重厚なフランネル。



タグに書いてある「ARCHIV」は、FRANK LEDERが過去にリリースしてきたアイテムをリファインした「アーカイブライン」という意味。勿論、単純に復刻したものではなく、現在の感覚に置き換えて生地やディテールはしっかりと変化させてある。原案となるアイテムを見たことがある人にとっては「あ、これ、懐かしい」なんだけど、そんな予備知識を抜きにして見れば明らかに2024年のアイテムだと思う。

そもそも(ファッションに限らず)過去の何物をも参照しないアイテムなんて、この世には存在しないわけなので「アーカイブだから」とか「アーカイブじゃないから」とか、そのあたりは一旦無視して真っ新な目で見てもらったほうが良いかもですね。知識や経験知の虜になって、自分の感受性を閉じてしまう結果にならないためにも。

実際に、このセットアップの原案となるアイテムを僕は所有している。10年以上前に購入した、デタッチャブルカラーのジャケットとその組下になるパンツ。生地や襟周りのディテールは違えど、そのアーカイブはたしかにこのセットアップの原案になっており、それは今も僕のクローゼットに眠っている。

その経験知を以てしても、この2024年にMANHOLEの店内で出会い直したこのセットアップは、明らかに当時のそれとはまったく違う見え方をしているように思えた。



そもそもFRANK LEDERは自国ドイツの歴史や古い文化に造詣が深いデザイナーだ。「過去から参照するものなど何もない」と言い切れるほど無知ではない、と言い換えることもできる。



知識とは、増えれば増えるほど人間を悲しい気持ちにさせるものなのかもしれない。知れば知るほど、自分がまだ何も知らないという真実に近づいていく。人間の歴史の大きな流れの中で言うと、完全に新しいもの(=大発明に値するようなもの)なんてほとんど残されていないのかもしれない。美術も建築も、そして洋服もまた例外ではない。

稀にそういった革新的なものが生まれるとすれば、それは産業革命とかIT革命とか、そういったテクノロジーの刷新によって(結果的に)新製法や新素材が生まれることで、生産可能になるアイテムが増えるという意味の「新しさが誕生する」ときだろう。

しかし、FRANK LEDERに限って言えば、彼はどれだけテクノロジーが進化しようとも、きっとそういった新素材や新製法を積極的に取り入れることはないだろうと、20年以上にわたってこのデザイナーのクリエイションを見つめ続けていて僕はそう思う。



写真家・森山大道の言葉を借りるならば「過去はいつも新しく、未来はいつも懐かしい」。デビュー当時、「アレ・ブレ・ボケ」のように粒子の粗いモノクロームとその陰影の中から出現したドイツ人デザイナー・FRANK LEDERは、まるで森山大道が路地裏に打ち捨てられた歴史の断片に光を当て続けてきたことと同じように、ドイツの片隅で忘れ去られてきた物語に対して執拗にフォーカスしてきた。

例えば、シャベル型のトロンプルイユを施したアイテムは1900年代前半のシュールレアリスムに、デタッチャブルカラーのジャケットは1930年代ごろまでのクラシックシャツにインスパイアされたのかもしれない(し、されていないのかもしれない)。いずれにしても、FRANK LEDERの根幹には過去のある地点で忘れ去られてしまった風景や物語がある。中途半端な同時代性に目配せをすることがない。



そういえば、以前、僕とは親子くらいに年の離れた吉田悠人くんが書いていました

「ルーズソックス全盛の頃を知っていれば、「まわる〜まわる〜時代は〜」とかなんとか言えないこともないですが、知りません。そもそも、『時代も流行も、廻るからね』みたいなのも、飽きました。別にもう廻ってようが驚きませんよね」

と。これは現在20代前半である彼の正直で真摯な感想だと思います。そして、しかし、(語弊が無いように勝手に補足するならば)彼が「飽きた」と言い放っている相手は、時代の回転を何周も対岸から俯瞰で眺めては勝手に諦める「大人」、つまり傍観者の目線に対してだと思うのです。しかし、FRANK LEDERは傍観者ではない。回る時代を他人事のように眺めながら適当なタイミングでアーカイブに元ネタを求め、リリースしているわけでは決してない。



時代の回転が螺旋状のものだとすれば、彼は愚直なまでに留まっている。流行や技術革新を観察しながら回転速度に合わせて器用に洋服を作っているのではなく、徹底して「そこ」に留まっている。路地裏に打ち捨てられた歴史の断片、そこに留まり続けている。つまり、FRANK LEDERは時代の回転を対岸から俯瞰で眺めては勝手に諦める「大人」などではなく、意地でもそこから動こうとしない「子供」なのだ。だからこそ、どこか新しい。

2024年にMANHOLEの店内で僕が出会い直したこのセットアップは、明らかに当時のそれとは違う見え方をしているように思えた。

そもそも(ファッションに限らず)過去の何物をも参照しないアイテムなんて、この世には存在しないわけなので「アーカイブだから」とか「アーカイブじゃないから」とか、そのあたりは一旦無視して真っ新な目で見てもらったほうが良いかもですね。知識や経験知の虜になって、自分の感受性を閉じてしまう結果にならないためにも。ましてや、FRANK LEDERのように一点を見つめ続けているデザイナーが作る洋服においては、なおさら。そして時代が回れば回るほど、FRANK LEDERが作る洋服は新しくなる。何度でも。

他人行儀な分析は後回しにして、とりあえず店頭でこのセットアップを見てみてほしい。明らかな、当事者の目で。

“FRANK LEDER” [ARCHIVE EDITION]
– DETACHABLE COLLAR JACKET – ¥151,800-(tax included )
– TROUSERS – ¥75,900-(tax included)



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