堀切道之の穴
人間には穴があいている。
誰にでも穴があいている。
僕にもあいている。
おなじ理由で堀切さんにもあいている。
ここでいう僕、つまりこのブログを書いているのは、こんにちは、鶴田です。
そして、ここでいう堀切さんとは、勿論CLASSのデザイナー・堀切さんです。
堀切さんはこのブログで「こんにちは」と言わないので、堀切さんの代わりに僕が「こんにちは」しておきます。
はい、こんにちは、堀切道之です。
(こんにちは~)

1999年の映画で「マルコヴィッチの穴」というものがあります。1990年代初期からミュージックビデオや短編映画でその鬼才を発揮していた映像作家のスパイク・ジョーンズが初めて手掛けた長編映画作品で、その内容は「主人公の人形師が俳優ジョン・マルコヴィッチの頭に通じる穴を見つける」というもの。奇想天外な脚本を担当したチャーリー・カウフマンは数々の賞を受賞しました。

このジャケット(ブルゾン?コート?)にも穴があいています。この穴は果たしてどこに通じているのでしょうか?
(鶴田さん、安直に、僕の頭の中に通じさせないでくださいよ~?この穴を)
とりあえず、中に入ってみましょうか。

どうやらここは1980年代らしいぞ。パリコレ会場?真っ黒のニット、そこらじゅうに穴があいている。これって、コムデギャルソン?モード界のタブーに挑んだ伝説のコレクション?ジャーナリストたちは全員揃ってイヤそうな顔をしている。革命って、こういうことを言うんだろうな。
(ギャルソンはやっぱり偉大ですよね~)

中綿入りキルティングの裏地がついた、このアウター。外側だけで見ると、バルカラーコート×テーラードジャケット的、普通のルックスなんだけどなぁ。

両肘の内側に、バイクパンツの膝みたいなダーツが数本入っていて、そのダーツを目で追っていくと吸い込まれるように辿り着く、穴。



穴。
穴。
穴。
ANA。
穴・ウインター。穴と雪の女王。アリ穴・グランデ。サイコ穴リスト。愛しのタチ穴。穴ーキー・イン・ザ・UK。
大盛り上がりのMLBも、かつてはひとつだった「穴リーグ」が袂を分かち、現在では「ア・リーグ」と「ナ・リーグ」になったとかならないとか。
人間には穴があいている。
誰にでも穴があいている。
僕にもあいている。
おなじ理由で堀切さんにもあいている。
(あいてますかね~?)




ここは1920年代のパリ?ホテル「ル・ムーリス」?ホテルマンが着ているジャケットの両脇下に、穴。ジレのようにぴったりとフィットしたエレガントなボディでも仕事をしやすいように、脇に穴をあけて可動域を広げている?サーヴァント・ジャケット。
穴あきって、アナーキーなだけじゃないんだなぁ。

映画「マルコヴィッチの穴」劇中で、主人公の人形師(ジョン・キューザック)はオフィス内で偶然見つけたトンネルを抜けてマルコヴィッチの脳内に忍び込むが、それは(15分間だけ)ジョン・マルコヴィッチの頭の中に接続されるという世にも不思議な体験だった。そのうちに、この脳内トンネルを使って「1回200ドルで15分間、誰でもマルコヴィッチになれる」という商売までもが始まってしまう。
(鶴田さん、そっちじゃないですよ~)

さっきから、穴の中で堀切さんの声がこだましている(気がする)。
おかしいな、この穴は一体どこに通じているのだろう。
確かめようと思って、光の射す方へ。穴から出てみたら、そこはさっきの入り口と同じ場所だった。

– CCEA15UNI B –
¥148,500- (tax included)
そこは、正真正銘、ただの穴だった。入り口と出口は同じだった。中まで潜り込んでみたところで、ジョン・マルコヴィッチや堀切道之の視点から世界を見ることは出来なかった。なにか新しい景色が欲しくて、洋服の中の奥深くまで入り込んでみたけれど、結局、世界は同じだった。何も変わらなかった。
こちらから覗き込むものではなかった。
むこうから覗かれるものでもなかった。
それは、ただの穴だった。
(そりゃそうですよ、僕は穴をあけただけなんです)
そこで、こだまはぴたりと止んで、それっきり彼の声が鳴ることは二度となかった。気づいたら、僕の洋服の両肘には穴があいていた。ぽっかりと、真っ黒な空洞のままで。その穴を埋めるのは哲学でも歴史でも思想でもなく、ただ僕の身体だった。
堀切道之は洋服を作る。僕は彼が作った洋服を着る。ただそれだけ。
洋服とは観賞用のアートではない。身体を中に入れ、その精神が自ら躍動し始めたときにだけ、初めてファッションとして機能する。それ以上でも以下でもない。つまり、これは単なる「洋服」に過ぎない。だからこそ、こんなにもカッコいいんだと思う。
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鶴田 啓
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