“ 手放すことのないモノ ” #1
こんにちは。
MANHOLEの河上です。
僕はおそらく手放すことのないモノをいくつか持っています。
誰にでも価値があるものでも無いかもしれないし、実際に着ることはないかもしれません。
企画のサンプルにすることもきっと無いし、ましてや売ってお金に変えることなんて絶対に無いモノ。

Kilgour French & Stanbury
“Navy Safari Jacket”
これは昔、当時の先輩から譲って貰ったジャケット。
今思うと、当時のドレス業界のメインストリームが持つ魅力を僕は感じることが出来ませんでした。
売り場を見渡すとイタリア”風”のアンコンの軽い仕立てのスーツ/ジャケットが主流。
(もちろんそれもファッションではあるとは思いますが、「仕事着」としての側面で提案することの多いモノに対して、洋服としての魅力を感じることが販売員経験の浅い僕には難しかったのかもしれません。)
中にはSavile Rowのビスポークテーラーの既製服や、デザイナーズブランドが監修するコレクションラインなども並んでいましたが、そこに興味を持つ手がかりを他の洋服から感じ取ることが難しいほど。
何がわからないのかわからない状況だった僕に言葉や感覚で伝えてくださる方は多くいらっしゃいました。
ただ、勘のあまり良く無かった僕は、実際にモノを手にするまで、きっかけを掴むことが出来なかったのです。



このジャケットは僕にとって、そのきっかけを作り出してくれた洋服。
譲ってくれた先輩はもしかするとそんな意図も無く普通に生活費に困ったから僕に売ったのかもしれません。
「買い戻したい。」という連絡を数年に一度もらうのですが、のらりくらりとかわしている最中です。


袖物もパンツも、容赦なく魔改造する人でした。
おそらくこのジャケットもほとんど原型を留めていないでしょうが、”洋服を考えながら着る楽しさ”を伝えてくれました。


「本物」に触れやすい環境にあったのだから、価格もデザインされた「〜風」に小銭を落とさないで、無理してでも「本物」を自分で買っていればもっと楽しかったんだろうなあ。
「aldenとかHeinrich Dinkelackerもそんなに買い漁らなくていいから、ビスポークでジャケットを2,3着作っておきなよ〜。」と、当時の僕に伝えてあげたいですが、人生なんてそんなもんですよね。
中小の個店と違い、大手企業にはたくさん「伝えてくれる人」がいるし、「本物」に触れる機会を自分次第である程度作り出すことが出来る。
それに気付いたのは大手企業を抜けて、前職の中小個店に移ってしばらくしてから。


バツバツのフィッティング。
ウェストをえぐるようなシェイプライン。
サイズも合わず、僕が生きてきたどの時代にも全くフィットしないこのジャケット。
移り気な洋服の時代性に振り回されそうな時に冷静になるための、僕のサイズゲージでもあるのです。
河上 尚哉