靴の顔
こんにちは。
MANHOLEの河上です。
洋服屋に入りたての頃、店頭の革靴を「かっこいいなあ。」なんてベタベタ触りまくっていたら先輩からハチャメチャに怒られました。
『うるせえなあ。』 なんて思いながらなんで怒られてるのか理解せずに、とりあえず口先だけで「すみません。」と謝ったのを今でもたまに思い出して後悔します。
思えば怒られっぱなしだったなあ。
その当時は何故か「理不尽に怒られている。」なんて被害妄想を抱いていましたが、大体は自分が悪いんですよね。
自分に降り注ぐ不都合は大半が自分のせいだから自分で解決しないと、って考えると大分視界がクリアになりましたよ。
と、そんなに「全部自分が悪いんだ。。。」なんて考え続けると鬱になっちゃうんですが、周りに恵まれていたんでしょうか。
他人に注意した事や失敗を、絶対に自分でやらない人が多かったなあ。
中には他人に注意した事や失敗を、普通に自分でもやっちゃう人もいましたが、そういう場合は「こういう人にならないようにしよう。」なんて思えたので、そういう意味でも。
F.LLI Giacomettiのローファーが入ってきました。
今シーズンは先日まとめて紹介していたSANDALOしかオーダーしておらず、それを半年間かけて売っていくイメージだったのですが。。。
なんかもう無くなりそうなので、急遽仕入れておきました。
甲革は既に廃盤になった、CULATTA CAVALLO ROVESCIO。通称:つま先コードバン。
木型はジャコメッティの用いるローファー木型の一つ:LUIGINO。
先シーズン、甲革にエレファントレザーをあてたモデルと同一の木型です。
ハンドソーングッドイヤーウェルテッド。
ヒドゥンチャネルのレザーソール。
コードバン層を持っている馬革を用いて、トゥ部分にコードバンが位置されるように手裁断しています。
その為トゥからサドル部分まではコードバン、サドルからヒールにかけてリバーススエードに革質が変化します。
血筋や斑点がそのまま残されたトゥ部分のコードバン。
繊維質を潰し、鈍く光るリバーススエード。
トゥ部分だけ磨けば良い靴。
革と工場はイタリア。
デザインと合理性はアメリカ的発想。
7,8年前、買ったばかりのHeinrich Dinkelacker:Rioを履いて原宿にある老舗英国古着屋さんに寄った時に「良い靴を履いているね。雨に濡れて水が入ったり、日に焼けて色が変わるのが楽しみだ。」と言われました。
「最近はコードバンをひどくありがたがって履く人が多いけど、本来は磨けば簡単に光る合理的な革。そういう意味でもアメリカ人らしい革だよ。水に濡れてシミが出来ても磨けばなんとかなるし、コードバンの色ムラは手入れをすれば美しい。」
普通に履いていたら傷も入るし水にも濡れる。
僕が革靴を気負わずに適当に大切に履けるようになったのは、この言葉がきっかけだったかもしれません。
靴をベタベタ触っていてハチャメチャに怒られた日の翌日、ちょっと早めに出勤したら僕がベタベタ触っていた靴を丁寧に磨く先輩の姿が。
「お前がベタベタ触っていたのは靴の顔。お前も自分の顔をベタベタ触られたくないでしょう。お客さんはいいけど、店員がそれをやったらダメだよね。」
う〜ん、確かに。
そういえばF.LLI Giacometti代理店のWHEELIE代表:秋山さんはイタリアから靴が納品された際に自分で全て検品/必要であれば磨いてから出荷をしているそうです。
ふと入ったお店でかっこいいなあ。なんて感じられる物の多くは。
物がかっこいいだけではなく、そう思ってもらえるように維持している見えない誰かの努力の成果だったりします。
河上 尚哉