育つ、育てる
僕が大好きな靴、GUIDIのPL1。
大好き過ぎて、ついつい履いてしまう。仕事の日も休みの日も、コンビニに行くだけの時も。MANHOLEに入る前から僕はこの靴を頻繁に履いていたから、河上の中では「GUIDIのPL1=鶴田さん」というイメージが定着していたらしい。
こんにちは、GUIDIのPL1です。
いえ、間違えました。鶴田です。
下の写真は、前職時代に購入して以来、三年前からめちゃくちゃに履き込んできた僕のPL1。



雨の日も風の日も乱雑に扱って、たまにクリームを入れる程度のケアをしてきた。初めはもう少し黄色みが強いブラウンだったけれど、いつの間にか日に焼けたり摩擦が起きたり油が染み込んだりして、写真のような濃い色になっていた。しわ、しみ、むら、きず。いわゆる、経年変化というやつだ。
世の中には、この経年変化という言葉に弱い人が(特に男性に)多い。その対象となるのはデニム、レザー、ツイードなどの天然素材で作られた屈強なメンズ服。根気強い「味出し行為」の果てにある「経年変化」に愉しみを見出す気持ちは別に分からないじゃないけれど、そもそも僕は根気強くない。1990年代に大ブームとなった「たまごっち」にも全くハマらなかったし、何かの見返りを想定して「育てる」ことに精を出す、という行為に向いていない。ちなみに、僕には子供が二人いるけれど、立派な大人に育ってもらうために今のうちから(本人たちが望まない)学業の先行投資をしたりはしないし、お洒落な洋服をたくさんお仕着せてファッションセンスを磨いてもらうつもりもない。ただ、目の前にいる彼らと毎日を楽しく過ごしたいと思う。

” GUIDI ” – PL1 –
Color : Black-FullGrain / Beige-FullGrain / Burgundy-Reverse
Size : 39 – 44
¥205,700-(tax included)
現在、MANHOLEの店頭に並んでいる「育てる前」のGUIDI PL1三種。そもそもGUIDIの製品は染色の段階でタンブラーダイ(ドラム式洗濯機状の装置に縫い上げた靴を放り込み、ぐるぐる回しながら染料で染める)という手法、すなわち製品染めで仕上げられている。そのため、アッパーやソールは勿論のこと、ジップやステッチなどのパーツ類までが新品の状態で既に「味が出ている、育っている」ということ。
だからこそ「ここから更に経年変化が加わると唯一無二の表情を見せてくれるだろう」という過剰な期待を背負ってしまいがちなPL1。
でも、それってねぇ…。

どんよりとした、どす黒い赤。

グレー味がかったベージュ。

ワイルドなのに、艶っぽい黒。
育てる。
例えば新品のコードヴァンシューズを初下ろしするとき。アッパーの好みの位置に定規を押し当てて「いい感じのしわが刻まれますように、立派な靴に育ちますように」と願う、ちょっとまって、そこ。「いい感じ」の基準というのは「自分好みの」ということなので、結局どのような経年変化が「いい感じ」で「自分好み」なのかは人によるということ。これはなんだかモノ自体との関係性をすっ飛ばして、結果に自分のエゴをぶつけているような感じがして好きじゃない。子供たちに親好みの大人に育って欲しいわけじゃない。




まだ味が出る前、育つ前、新品のPL1だって、中台がこの日に着てきたボロい古着に十分マッチしている。



まだ味が出る前、育つ前、真新しいPL1だからこそできるコーディネートもある。
そもそも、僕らにとって「いかにも経年変化しそうなアルチザン的レザー」と「いかにも経年変化という言葉から遠そうなケミカルイエローの人工スエード」は並列なものである。長い年月の末に発現するかもしれない何かに対して過剰な期待を寄せるわけでもなく、今、この瞬間に楽しいと思うものを手に取り選ぶだけ。

気に入って着用を繰り返すうち、もしかしたらラオスで手織りされた植物繊維は破れるかもしれないし、ベジタブルタンニングで鞣されたホースレザーは重厚なしわを刻むかもしれない。しかし、それはあくまでも目的ではなく、自然な行為の末にある無我の副産物である。
ヴィンテージデニムが滅茶苦茶にボロボロでもカッコいいのは、鬼ヒゲを目指してバスタブで洗いまくったり軽石で擦ったりしたからではなく、ハードな労働の過程で自然発生的に刻まれた色落ちに汗が染み込んでいるからだと思う。

そもそも新品の状態でも左右で顔立ちが違うPL1。それぞれが別の個体(馬)から採られているのだから、当たり前か。「自分好みの経年変化」などどいう幻想に期待しすぎず、望み過ぎず。
遺産目当てに社長令嬢と結婚するわけじゃなし。気づいたら経年変化で増えているのは眉間のしわだけだったりして。
もっとピュアな目線でこの靴と相対することが出来れば、きっと毎日は楽しく、一緒にいる時間も長くなり、その関係性の結果として「いい顔」が出来上がるのだろう。靴も、人もお互いに。
育てるものではなく、育つもの。
つまり、それは愛だと思う。
鶴田 啓
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