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” 手放すことのないモノ ” #2




Kilgour French & Stanbury





こんにちは。
MANHOLEの河上です。

僕はおそらく手放すことのないモノをいくつか持っています。

誰にでも価値があるものでも無いかもしれないし、実際に身につけることはしばらくないかもしれません。

企画のサンプルにすることもきっと無いし、ましてや売ってお金に変えることなんて絶対に無いモノ。




” Heinrich Dinkelacker “
– Rio – [ Cordovan Full brogue ]



僕が革靴を好きになるきっかけを作ったのは、アメリカ靴でもイギリス靴でもフランス靴でもイタリア靴でも無く、ドイツブランド/ハンガリー製のシューズメーカー:Heinrich Dinkelacker。


「ボタンブーツが欲しいなあ。」と何故か思い立った当時の僕は、下調べもせずに色々なお店を回って探して聞いて「そんなものは扱っていない。」と無下に断られるという流れを繰り返していました。



そんな中、BEAMSで対応してくださった方が唯一”ボタンブーツがどんな物で、どこであれば扱っている可能性があるか”を案内してくれました。

その丁寧な対応の最中、僕の視界にチラチラと入る”トリプルレザーソールの無骨ながら品のある見たことの無い形の革靴”。


説明を聞き終えるまでにボタンブーツのことは正直どっかに飛んで行ってしまっていたのですが「どこかで働くなら、この人のような対応が出来るようになりたい」という気持ちをそのまま持って帰って履歴書に書き込みました。





ジョー・レンデンバッハ社のオークバーク、重厚なトリプルレザーソール。
飾り釘、トゥスチール。

ホーウィンのシェルコードバン。
メダリオン、ブローグの美しい飾り穴。

崖のように反り立つ特有のトゥ。

無骨だけどエレガント。




「お前にこの靴はまだ早い。」と、いうことで結果的に色々な革靴を履いた後に買う事に。


アメリカ靴、イタリア靴、イギリス靴。
それまでに買ったどんな靴よりも、僕の甲高で幅広な足の形にハマってくれたシューズでした。



その後、
同じ形/コードバンのダークコニャック、同じ形のスウェード/クレープソール、同じ木型の3アイレットのプレーントゥ、ローファー/Wienを立て続けに買う事になるのです。



「同じ形で色違いで買っても、どうせ片方しか履かないんだからやめなよ。」という先輩の制止を振り切って買ったダークコニャックは結局履かなくなりました。

同じ木型の3アイレットのプレーントゥは、なんかフィッティングがしっくり来なかったので履かなくなりました。


だから僕はお客さんがどんなに気に入ってもサンダル以外は色違いでシューズを買わせることは無いし、同じ木型のシューズでも必ず履いてもらってフィッティングを見てから買ってもらうようになりました。



「コードバンは合理的なアメリカ人が好む、磨けばすぐ光る合理的な革だよ。だから変にありがたがる必要なんて無い。しかもそれ、フルブローグでしょ? 雨に濡れることを怖がるよりも、雨に濡れた後に適切な手入れを行う方法を身につけた方がよっぽど君の為になる。 」

原宿の隠田区民館近くにある老舗のテーラード古着屋の店主の方からこう教わった時から、僕のコードバンに対する印象は変わりました。


確かに裂けには弱い繊細な革だけど、濡れて毛羽立つのは潰して磨けばいい。
色むらが出来るのもコードバンの味。

「磨いてピカピカ!鏡面磨き!」なんて事を家で楽しむよりも、外に履いて出かけた方がよっぽど楽しい。



梅雨時期にカーフの靴がどんどんカビていくのに対し、コードバンの靴だけは何故かカビが生えなかったのも、僕がコードバンが好きな理由でした。(なんでなんですかね。)






履くためにあるのか、磨くためにあるのかわからない、尚且つお金になりそうな靴は会社を作る時にあらかた処分してしまいました。



買ってから8年目。
ここ2〜3年はボリュームあるシューズの気分でも無かったし、紐靴に疲れたせいか履いていなかったけど。


この靴だけは、どうしても手放せませんでした。






僕の適当な履き方にも、適当な生活にも、適当な手入れにも耐えてくれた靴。

今尚「かっこいい靴だなあ。」なんて袋から取り出す度に思わせてくれる以上に、この靴を履いて経験したことや、失敗したことを思い出すモノでもあるのです。







そろそろまた履いてみようかなあ。



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河上 尚哉